アクセシビリティとはを一緒に考えて分かった視点転換の発想

「アクセシビリティってなんなのさ」という Q&Aイベントでモデレーターを務めました。手を動かすだけで時間が過ぎてしまうことが多い日々で、多くの人と一緒に改めてアクセシビリティについて考える時間を共有できたことが何よりも良かったと思います。

イベントのグラッフィックレコーディング

4月23日、クリーク・アンド・リバー社主催で、と、コラボ特別編「アクセシビリティってなんなのさ」というイベントが開催されました。これは昨年開催された「UXってなんなのさ」い続く Q&A 中心で 3 時間話し切るというもの。今の仕事に直結するテクニックや知識を得たいという方には向いていませんが、参加者全員で課題共有をして考えたいという方には参加価値があったと思います。今回は私はモデレーターとして参加し、「デザイニングWebアクセシビリティ」の著者である太田良典さん(@bakera)、伊原力也さん(@magi1125)。「IA/UXプラクティス」の著者である坂本貴史さん(@bookslope)にアクセシビリティの過去・現在・未来についていろいろ質問しました。当日の模様の一部は Togetter でまとまっています

以下、モデレーターの視点からイベントで感じたことを書き残しておきます。

信念だけではどうにもならない

性別・人種・年齢・身体の状態に関係なく、自由にコミュニケーションができる World Wide Web。相手がどんな見た目であっても関係なく、アイデアを様々な壁を飛び越えて共有することが可能になりました。90 年代、Web が多くの方に利用されるようになりましたが、そのオープン性に魅了された方は少なくないと思います。今は様々な情報が『見える化』されていますが、当時は見えていないからオープンで自由な情報をやりとりができていたのかもしれません。

今でも Web に携わる 30代から 40代の方は、Web が爆発的に広がったときのインパクトを肌で感じています。そして、その Web の特性を大事にして Web サイトやアプリを作り上げることがプロとして必須であると信じていると思います。W3C が掲げる One Web の考えに同調しているでしょうし、Web は閉じた世界になりつつあることを危惧しているかもしれません。

Web の特性や可能性を信じている方であれば「誰でもアクセスできること」という考えは自然であり、当たり前と考えるでしょう。しかし、今は 20 年前と大きく違います。Web とネイティブアプリが両立した世界になっていますし、ビジネスや日々の生活にも密接な関わりをもつようになりました。そして、Web の特性を理解する前に、とにかく今すぐ成果を出したい、すぐに職に就きたいと考える方が圧倒的に多いのも大きな違いです。

オープンで自由だった Web を肌で感じている方同士であれば「アクセシビリティは当たり前だからやろう!」で済みますが、そうでない方のほうが多い中で同じような伝えた方をしても「で、何したら良くて、それしたら自分のキャリアやビジネスのプラスになるの?」といった反応になっても仕方ないわけです。アクセシビリティの考え方の啓蒙や、実装の悩みに関する質問が多いなか、「とにかくやってみよう!」という論調では通じません。

こうしたなか、ある程度の強制力は止むを得ないことだと考えています。例えば欧米のほうへ目を向けると、アクセシブルな Web サイトを構築しないと違法扱いになるところがあります。米国の Section 508 はもちろん、オーストラリアの World Wide Web Access: Disability Discrimination Act Advisory Notes など、2000 年前後から国家レベルでのアクセシビリティの取り組みが続いています。

欧米でも日本と同様「どうしたらもっとアクセシブルな Web サイトにできるか」といった議論はされていますが、信念で実装を頑張るのと、法律だから実装のため努力するのとでは大きな違いがあります。日本でも今年 4 月から障害者差別解消法が執行されました。これにより「なぜアクセシビリティって必要なの?」という質問に答えやすくなるところがありますが、「正しいことだから実践する」以外の伝え方も増やさないと、浸透への時間がさらにかかるのではと危惧しています。

状態と状況から体験を考える

必要としている情報や機能へ誰でもアクセスできるという『Web 的な考え方』は、今のデザインプロセスと相反する考え方のように聞こえることがあります。調査に基づいたペルソナを共有し、ターゲットを絞り込んで設計・実装するというプロセスに、『誰でも』を掲げるアクセシビリティの考え方を適応することはできるのでしょうか。スピードを上げるために必要最低限の機能を実装するつもりが、誰でも使えるようにするために時間が掛かってしまう恐れがあります。

こうした意見には 2 つの誤解があります。

  • すべてをひとつの Web サイト・アプリで解決しようとしている点。今は複数のタッチポイントを用意することが必須とされているので、それぞれでターゲットを絞っていたとしても、アクセスするための手段がどこかにあれば良しと言える。
  • 「見えにくい・見えない」「片手しか使えない」といったことは障害者だけの問題と考えている点。永続的に続く状態という場合もあるが、一定時間だけで同じような状況に陥る場合がある。

状態と状況の違い状態と状況は違っても、抱えている問題は同じという場合があります。

カスタマージャーニーマップで、利用者のタッチポイントや、製品との関わりを時系列で視覚化できたとしても、ある特定の瞬間(モーメント)まで考慮されているでしょうか。弱視の方はターゲットにしていないと決めているからといって、コントラストが低い画面設計が良いとは言えません。特にアウトドアでよく使うことを想定しているのであれば、弱視の方と同じような見えにくい状況になり得るわけです。

ターゲットにしている人たちが陥る様々な状況を想定しながら、目的の情報や機能へアクセスできるような配慮をするという考え方であれば、アクセシビリティと UX デザインは非常に相性の良いものと捉えることができます。人だけを見ず、環境も含めて人を見ることで、新たな課題が見つかりますし、アクセシビリティの基本的な考え方と重なるところもありそうです。

まとめ

高松で開催したワークショップの前日に UI デザインをテーマにした Q&A イベントをしました。そのときも結論がないことを参加者全員と話しましたが、こうした少し立ち止まって考える時間がセミナーやワークショップより今の自分にとっては貴重だったりします。今回のイベントもあっという間に時間が過ぎてしまうくらい濃密な内容でしたが、スピーカー陣の熱烈トークを遮ってでも参加者が話せる時間を増やすべきだったと反省しています。モデレーター難しいですね。

このイベントで「アクセシビリティっなんなのさ」に対する明確な答えは出なかったですが、私はそれで良いと思っています。手を動かすだけで時間が過ぎてしまうことが多い日々で、多くの人と一緒に改めてアクセシビリティについて考える時間を共有できたことが何よりも良かったのではないでしょうか。アクセシビリティだけではないですが、使える情報が欲しいと口を開けて待っているだけでは何も変わりません。ささいなことでも情報を出していく。そして、それに対して偏見なく話し合えることが、今最も必要なことかもしれません。

筆者について

Experience Points

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