Webアクセシビリティがビジネスと付き合うための課題

アクセシビリティをより早い段階から取り組むには、ビジネスと正面から向き合う必要があります。内製・受託それぞれにあるアクセシビリティ運用の課題を解決しなければ、後付けのチェックという位置づけから抜け出すことは難しいかもしれません。

5月18日、神戸でアクセシビリティの祭典が開催されました。 Global Accessibility Awareness Day に合わせて開催されているイベントで、今回で 3 回目になります。Web サイト制作に留まらず、最新の支援技術の見学・体験ができたり、気軽に質問ができる場も用意されていました。今回は参加者として 1 日たっぷり勉強モード。当日の様子は Togetter のまとめを参照してください。

シフトレフトの課題

構築後の品質チェックの一環としてアクセシビリティを確認しているだけでは遅い場合が多々あります。設計段階から考慮されていないと、見た目だけでなく使い勝手に大きな影響を及ぼすからです。そこで、アクセシビリティもシフトレフトするべきだと考えることができます。制作・確認(テスト)といった工程の後半ではなく、企画・設計といった早期段階からアクセシビリティの専門家たちがプロジェクトに関わるべきという考え方です。

アクセシビリティをより早い段階から考えることは賛成ですが、その段階に入り込むにはビジネスと正面から向き合う必要があります。UX はその典型的な例で、従来はデザイン界隈で語られていた制作寄りのキーワードでしたが、今はビジネスに貢献する施策を練ることが必須です。アクセシビリティが企画・設計から入れるようになるには、ビジネスメリットに繋がるプランを描けるようになる必要があると思います。

誰でもアクセスできるようになることで、マーケティングファンネルの一番上にある「認知」が広がるでしょうし、セールスまでの過程もスムーズになるかもしれません。ただそれは、仮説というより全体的に言える展望に近いものだと思っていて、それではビジネスへの具体性が弱い状態です。

ここで言う「ビジネス」とは、売上に留まる話ではありません。ブランド価値や顧客満足度の向上も含まれています。アクセシビリティが儲かる・儲からないという枠組みだけで話をすると限界があると思っていて、異なる角度からビジネス貢献を考えるのも手段だと考えています。例えば以下のようなことも含まれています。

  • エラーの見せ方を工夫して、お問い合わせ数を減らす
  • ソーシャルメディアから聞こえるお客様の声の変化を調査
  • 今まで取りこぼしていたデバイスからのアクセスの仕方の変化
  • メタデータを整備して、サイトへの窓口を増やす

こうした施策にアクセシビリティの考え方や実装は欠かせないでしょうし、あとで取り組めば良いと考え難くなるはずです。多くは数値化できますが、真の効果を見定めるには、人の声を集めるのが最適です。定量評価だけでなく、定性評価も浸透させる手段としてアクセシビリティは有効かもしれません。

最後に開催されたQ&Aの様子

受託ができるアクセシビリティとは

受託という、納品後は自分の手から離れてしまう案件だとアクセシビリティの実践は骨の折れる仕事だと思います。運用が始まると徐々に品質も落ちていきますし、いつの間にかアクセシブルではない状態になっていることもあります。アクセシビリティに取り組んで作り上げたサイトも、いつまでその状態が続くか分からないわけです。それに比べて、内製でアクセシビリティを取り組むのは幾つかメリットがあります。

  • アクセシビリティが保たれる運用体制を育てることができる
  • 運用しながら自社に合う体制や制度を考えることができる
  • 始めはきちんと規格準拠していなくても始めることができる
  • 「まず始める」という行為そのものが啓蒙に繋がる

内製にも特有の課題は多々ありますが、アクセシビリティも運用が大前提なので、その課題を解決するには内製は適していると思います。受託でも中長期的な関わりをもつことができれば、アクセシビリティの運用も可能でしょう。ただ、それができないという関係性だとなかなか厳しいものを感じます。

スタイルガイド、ライティングルールなどを整備しても、『納品』だけではなかなか組織に浸透しません。企業ビジョンに合うようにアクセシビリティ指針を作るのも手段で、そうすることで「アクセシビリティを守る」という視点から「企業ビジョンそのものだから実践する」という考え方になりやすいはずです。この辺りの考え方はデザイン原則と似たところがあります。受託案件は、客観的な視点をもちながらも、クライアント企業の視点や文化に合わせたソリューションを提供できるのが強みです。内製にはないアクセシビリティ運用の課題と対策は考える余地があると思います。

まとめ

アクセシビリティの祭典は、情報収集の場として捉えるのではなく、(広義の)アクセシビリティに取り組む様々な人と出会う場として最適です。立場も違えば、取り組み方や価値観も違います。合っている・間違っているという判断をせず、ひとつの考え方として受け止めた上で、自分は何ができるのか振り返ることができます。多様性、オープン性という web の本質に近いものをリアルで味わうことができる 1 日になりました。

来年も開催予定なので、興味がある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

筆者について

Experience Points

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