カスタマージャーニーマップが使える理由と注意点

特定のチャンネルに限定せず、明確なゴールを築くことによってカスタマージャーニーマップは有効な共有ツールになります。作り手が言う「利用者視点」の先入観をリセットして考え始めるために利用します。

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デザインに使えるマーケティングツール

カスタマージャーニーマップ(Customer Journey Map, CJM)は、顧客がどのように製品やサービスと関わるかを視覚化することによって、課題を共有することができるツール。デザインプロセスの一部として採用されるようになりましたが、マーケティングでは顧客との接点を俯瞰して見ることができるということで 5, 6 年前くらいから注目を集めています。(外来語をそのままカタカナ表記にしたくなかったということで「体験のマッピング」と名付けて以前から実践しています。)

オンラインでもオフラインでも顧客との接点は劇的に増えました。しかし、接点が増えたことにより利用者行動の多様化が進んだだけでなく、接点になる場所・媒体の浮き沈みも激しくなりました。また、企業やブランドに関わる利用者の心理や行動も変化してきているので「A と B と C でコンテンツやサービスを発信すれば良い」といった一方通行のメッセージ配信では伝わり難くなりました。そこで、顧客が接点になるチャンネルを一旦広げて整理するというのが CJM のひとつの目的です。

しかし、CJM をどう作るのか、作る工程を経て何をつかみ取るべきなのかが難しいところです。Google で CJM を画像検索すると 、様々な見た目のマップをみることができます。顧客がブランドと関わるライフサイクルや、接点の数によって表現が変わることがあります。ただし、以下のことを視覚化しようとしている点は共通しています。

  1. 顧客の行動・体験を時系列に並べていく
  2. 特定のニーズやタスクを設定して整理してく
  3. 行動するときに関わるであろうチャンネルすべてを見ていく
  4. ブランドとの接点がある前と、その後も考慮する

プロジェクトに関わる人であれば、誰でも「あれをしたい」「ここを良くしたい」という漠然な要望をもっています。CJM は、その漠然とした考えを『顧客の視点』というレンズを通して具体化するツールといえるでしょう。

準備次第で変わる成果物

CJMを作る工程は楽しいですし、ひとつの形になるので参加者の満足度が高いです。しかし、CJM は視覚化することで見えた課題(顧客が問題を抱えている瞬間)を解決すれば良いという、狭い視点になることがあるので注意が必要です。時系列に並べられたひとつひとつの瞬間を解決することは重要なことではあるものの、顧客はサービス/プロダクトに十分に満足しているから使っているという前提を築いている可能性があるからです。ひとつひとつの課題を解決するのではなく、サービス/プロダクトが顧客満足の繋がるものになっているのかという広い視点を同時にもつ必要があります。無理に「全部 Web で」「まずアプリで」とチャンネルを狭めてしまうと、根本的な解決に繋がらないことがあります。

そのために、CJM では接点をもつ前の段階も視覚化していくわけですが、「思い立ったら行動する」といった即時性がないことが多々あります。例えばカスタマーサービスが良い例です。製品を購入したから、すぐに電話をするということもありませんし、トラブルがあったからすぐ問い合わせるとは限りません。購入後 1 週間後かもしれなければ、1 年後という可能性もあります。

必ずすぐに利用することを『大前提』としない、どのタイミングで利用するのかを共有することが、CJM の完成度にも大きく影響します。動機や意図を明確にしたペルソナを作ると解説したのもそのためで、漠然と「顧客」と言ってしまうと何から始めればいいか分からなくなりますが、動機がある程度明確であればアウトプットがしやすくなります。

ワークショップでのアウトプットの一部

また、明確なゴールを築かないまま CJM を作ると「不十分なところは全部直しましょう」ということになります。それができれば理想的ですが、プラオリティは付けておきたいところ。お問い合わせ数を増やす、退会率を減らす、従業員の作業効率を上げるといったゴールをもつことで、幾つかある課題の中から何を優先にしなければならないのか見つけやすくなるでしょう。

上記をまとめると CJM を作るときの注意点は以下のとおり。

  • チャンネルを狭めないで課題の本質を共有する
  • つくる前に顧客の動機・文脈を設定する
  • ゴールを築いて、それに基づいた議論がきるようにする

ここまでして CJM を作る必要があるのかというと、答えは現状「YES」だと思います。プロジェクトの規模によってアウトプットの形は異なりますし、CJM そのものがデザインのもつ課題の解決に繋がらないこともあります。それでも使えるのは、参加者の視野を広げるツールとして便利だからです。

作り手や発信者側になると「こう使って欲しい」「こう見てほしい」という考えが強くなります。「利用者視点」とか言っても、自分の経験則だけで話している場合もあります。また、細かいところが気になり過ぎて、顧客の行動全体が見え難くなることもあります。こうした考えを一旦リセットして何をするべきかを考え始めることができるツールとして CJM は試してみる価値はあるでしょう。

筆者について

Experience Points

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