UXに関する疑問に答えて気づいたこと

UXの仕事とは知っているつもりで放置してしまいがちなことを改めてアウトプットして確かめることだと考えています。感覚的なところまでチームで共有されているのであれば、業界でいわれているUX定義とズレていようが構わないと思います。

グラフィックレコーディング

8月8日、クリーク・アンド・リバー社主催のイベント「と、コラボ特別編」で UX をテーマに座談会をしました(#tocolabo)。ポッドキャストで対談したネットイヤーグループ株式会社の坂本貴史さんと参加者といっしょに「UXってなに?」という初歩的でありながらも難しい課題について話し合いました。セミナーでもワークショップでもない、話をするだけのイベントでしたが、参加者の満足度が非常に高い有意義な時間になりました。

上図: webディレクターの阿呆な研究@azumi0812 さんが、イベントで作ってくださったグラフィックレコーディング

共有できるかどうかが課題

以前、HTML 5 Experts のインタビューで「いま、UXを語るのはなぜ悩ましいのか?」を話したことがあります。仕事環境、クライアント関係、役割に応じて UX という言葉のニュアンスが微妙に違うことがあるので、言葉だけ聞いて決めつけると誤解を生むという内容でした。個人的に UX の定義というのにはそれほど興味をもっていなくて、自分の仕事を反映するような定義をもっていれば、それで良いと思っています。

ただし、チームメンバーやクライアントといった他の方と UX を共有するとなると別の話です。「利用者のことを考えて良い体験を設計する」という何気ない言葉でも、様々な不特定要素があります。

  • 利用者のこと
    • 利用者はどんな人か?
    • どのような生活を送っているのか?
    • 製品やサービスとどのような関わりをもっている人か?
  • 考えて
    • 具体的に何を考えるのか?
    • 製品との接点が多い場合、どれを重点的に考えるべきなのか?
  • 良い体験
    • 製品が生み出している体験はなにか?
    • ここでいう「良い」とはどういう意味か?
    • 何をもって良いと判断するのか?
  • 設計する
    • そもそも設計って?広義のデザイン?
    • 何を設計すれば「良い体験」につながるのか?
    • 設計の優先順位は?

これらがすべて共有されているのであれば意思の疎通は難しくないでしょう。しかし、なんとなく使われている言葉を「分かっているつもり」で野放しにしておくと、大きな溝になることがあります。UX の定義も似たようなものだと思っていて、「これは誰でも知っているべき UX の定義」といった思い込みが、対話を難しくしていることもあります。一方、定義が独特でも、UX という言葉を通してチーム内でのコミュニケーションがしやすくなるのであれば、それで良いと思います。

むしろ、そこまで言葉を感覚的なところまで落とし込めるのであれば最適です。
8月6日、CyberAgent 社主催のUXなまトーク Vol.2でも登壇しましたが、そこで印象的だったのが音楽配信アプリAWAの話。 UI の動きの話になると「シュッ」とか「こういう無駄のない動きで」といった言葉で表現されることがあります。感覚的な表現が続くので、第三者からみると分かり難いことがあります。しかし、密なコミュニケーションを積み上げることで、チーム内で通じる言葉やニュアンスを共有できているのだと思います。その工程があるからこそ「シュッ」でも分かり合えるわけです。

UX という言葉にしても、感覚的なところまで共有されているのであれば、業界でいわれている定義とズレていようが構わないと思います。チームで共有できる『記号』を作るほうがよっぽど重要です。

会場の様子

理解を深めるためのプロセス

共有することが重要。コミュニケーションをすることが重要というのは周知のことですが、これが簡単にできているのであれば楽な話です。「ユーザー目線」といっても、描いているユーザーの姿が違ったり、向けている視点も微妙に異なることがあります。少しでも同じ方向を向いて話し合えるように、ペルソナカスタマージャーニーマップを作るわけですし、ときには組織としてのビジョンを振り返ることもあります。

と、コラボ特別編の終盤「UXの仕事とは?」という質問がありました。
私はその質問に「知っているつもりをなくすこと」と答えています。上記の手法にしても、知っているつもりで放置してしまいがちなことを改めてアウトプットして確かめることです。同じ場所で長く働いている仲でも、描いている利用者像が異なることがあります。それにお互い気付いていないまま「利用者のことを考えて作る!」と叫んでも、なかなか先に進めないわけです。

こうした理解のためのプロセスは、作る前段階へ『後戻り』するような感覚があります。早く形にしたい、形がないと評価が難しいことも多々あります。しかし、多くの方がデザインプロセスへ参加するようになった現在、土台作りをしっかりしないまま作り始めると、ちょっとした揺らぎですべて崩れ去ることがあります。誰もが意見を出せるからこそ、何をもって良いと判断するのかを共有していないと健全な議論はますます難しくなります。

今回参加したイベントではあまり話ができませんでしたが、理解の共有を積み上げていくだけでなく、それを維持するのも大きな課題です。ペルソナを作ったとしても、納品のために成果物になっただけで、使える道具として扱われていない場合があります。また、維持することが考慮されておらず、改修コストが高くなる場合もあります。時が経てば、人も変わりますし、生活様式も変わります。それに合わせて理解を『アップデート』するタイミングがあるかどうかも課題です。また、こうした理解の共有を含めたデザインプロセスを記録していくのも個人的に気になる話題。あるプロジェクトでは、他の方も使っているという理由で Wiki を実験的に試していますが、ここにも改善の余地がありそうです。

会話の接点を増やしていこう

大きな組織でない限り、UX デザイナーはひとりということは多々あります。上記したようなプロセスの設計だけでなく、UI デザインも一緒にする人も少なくありません。同じ仕事環境で同じように悩んでいる人がいない『孤独な仕事』になりがちです。さらに、無数に UX の定義のようなものが存在するわけですから、何を信じて進めばいいのか分からなくなることがあります。

自分の仕事を振り返り、同じような仕事をしている人が何をして何を考えているのか知ることができるという意味でも、セミナー形式より Q&A ほうが相応しかったと思います。セミナーのように不特定多数に向けて情報提供するとなると、一般的な情報になりがちです。 Q&A は特定の領域へ踏み込みやすかったと思います。

と、コラボ特別編は、ひとつ質問を考えることが参加条件という敷居の高いイベントでした。それでもたくさんの質問が集まりましたし、そこから様々な話題へ派生したのも、聞きたかったけど聞けなかったことが多かったからだと思います。残念ながら、イベントで答えた質問はわずかでしたが、ポッドキャストのほうで幾つか質問に答えています。いずれも 5 分前後と短くまとまっています。

今後、答えることができなかった参加者の質問を似たような形式で答えていきますが、もし質問がある方は遠慮なくどうぞ。Tumblr ページですが、非会員でも匿名で送ることもできます。

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
社内勉強会、イベントでの登壇の依頼は、メールか Twitter メッセージからお願いします。

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