自分は偏っていると思うことから始めるデザイン

同じような人たちが集まってデザインしていると、たとえ「ユーザーのため」と口にしていたとしても忘れがちな視点があります。

東京中心設計になっていないか

東京でデザインの仕事をすることはエキサイティングであると同時に、視点が偏りがちになります。様々な人たちとの出会いがある一方、特殊な街だと思います。東京は電車・バスが主な交通手段ですし、無料で WiFi へ繋がる場所も無数にあります。スマホから商品を注文すればすぐ届きますし、斬新なサービスも東京周辺エリアからスタートということも少なくないです。

人口が密集しているのでサービスが始めやすいというのはありますが、東京の光景が日本全国共通の『当たり前』とは限りません。幸い、年に何回か地方のデザイナーと現地で情報交換することがありますが、様々なことが違います。情報が遅れているわけではなく、生活光景が違うわけです。車社会であることはもちろん、オンラインで注文するよりショッピングモールで買ったほうが便利という場合もあります。都市部であれば、電車は主な交通手段ですが、駅前の雰囲気や人々の行動は東京で見るものと少し違います。

「歩きながら片手で操作できます」
「大量のコンテンツを閲覧できます」

とても良さそうに聞こえるフレーズですが、移動手段が電車で安定した回線があちこちにある東京(もしくは都市圏)だから響く価値かもしれません。車を運転しながら片手で操作は危険ですし、移動距離が長ければ回線が常に安定しているとは限りません。安めのデータプランにして節約している人も少なくないわけですから、大量のコンテンツが見れるからといって大喜びしないでしょう。

東京という『特殊地帯』の課題だけでなく、テック系・デザイン系の人たちによる『フィルターバブル』のようなものもあるかもしれません。私の周りだと 2 年以内にスマホを買い換える人はたくさんいますし、データプランも大きめ。速度やデータ量を気にすることなくアプリや Web サイトが楽しめる人もいます。こうしたハイスペックな人たちに囲まれて仕事をしていると、たとえユーザーのことを考えていたとしても、偏ったところしか見ていない可能性があります。

私たちのフィルターバブル

あのシリコンバレーも自分たちの当たり前を強制したようなプロダクトが出てしまうことがあります。自分たちが良かれと思ってやっていることでも、ユーザーに大きな負担がかかっている場合があります。エンゲージメントという名の下に、ユーザーの多くの時間を奪っていることも少なくありません。プロダクトの中毒性を高めるために研究者も交えて開発しているところもあります。Instagram 中毒の裏には何かしらのデザインがあるわけです。

プロダクトだけでなく仕事環境の課題もあります。シリコンバレーは未だに女性が仕事し難いと言われていますし、多様性が足りないのではないかという指摘もあります。30歳前後の白人男性達による偏った視点が『当たり前』になってしまったことによる課題ですが、似たようなことは東京で仕事をしていても起こるのではないでしょうか。東京在住の男性に偏った視点になっているかもしれません。

もちろん、シリコンバレーでもこうした課題に数年前から取り組んでいます。 様々な人種・性別の方の雇用がテックカンパニーで進んでいると言われていますし、Intel をはじめとした大企業も積極的な取り組みをしています。今は女性や白人以外の方が、スタートアップの重要なポジションに就いていることも少なくありません。こうした動きも従来の「狭い当たり前」を広げるためと言えるでしょう。

様々な視点と背景を考慮してデザインする取り組みであれば、マイクロソフトの Inclusive Design が有名な例です。いろいろな方をデザインプロセスに招待して一緒にプロダクトやサービスを作り上げるという取り組みを数年前から実践しています。「これはエッジケース」と言われて優先順位が下がるようなことでも、重要なことと見なしてデザインしています。同じような人たちが集まってデザインしていると、たとえ「ユーザーのため」と口にしていたとしても忘れがちな視点です。

ひとりのデザイナーとして今すぐできることは少ないかもしれません。しかし、自分が置かれている状況は特殊であること(それは東京でもそれ以外の地域でも言えます)。周りがそうだから皆もそうだと思い込まず、異なる視点や背景を持つ方と接点をもつことはスタートになります。東京は同じような人たちが集まりやすい場であるからこそ、頭の片隅に置いておきたいことです。

筆者について

Experience Points

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