デザイン業界にある『インスタ映え』な側面にふと思う

仕事における多くの課題は、すぐに結果は出ません。わずか数千文字の記事を読むと、短期間で結果が出たかのように見えてしまいますが、中には数年かけてようやく型になり始めるものもあるわけです。

美しいものだけに囲まれている不安

Instagram をはじめとした写真共有サービスでアップロードされる見栄えの良い写真を「インスタ映え」と呼ぶことがあります。ハッシュタグで繋がる様々な写真を見て楽しむことができる Instagram ですが、そこで映し出されている世界がすべてだと勘違いしている人も少なくないと思います。自分の生活と比べて「なぜ皆はこんなに楽しそうなんだろう」と悲観的になる人もいるかもしれません。

Instagram に限った話ではありませんが、ソーシャルメディアで共有されているものは、投稿者の生活がダイジェスト配信されているようなものです。言い換えるならば、「ベスト・オブ・◯◯さん」を見ているようなものでしょう。ソーシャルメディアを使う人たち全員が、自分の PRエージェントになって活動しているようなものかもしれません。

私は「インスタ映え」と似たような現象は、デザイナー、スタートアップをはじめとした組織が配信するコンテンツにも言えると思います。

  • 「こうしたら上手くいきました」という成功事例
  • 正論を通してプロセスを進めたエピソード
  • 時間と予算を十分につかった丁寧なプロセスの紹介
  • 最新の技術やツールをつかった実績紹介

付箋紙が貼られているデザイン現場こういう現場で仕事していないのは遅れている?

上記のようなコンテンツは仕事の役に立つだけでなく、インスピレーションにもなります。配信側も良かれと思ってやっていることですし、自分も幾つか書いています。しかし、こうした「インスタ映え」コンテンツばかりの環境はあまり健康的ではないと考えています。「ベスト・オブ・◯◯さん」を見ていると頭で分かっていても、「自分のやり方は遅れている」「ちゃんとやれていない」と思ってしまうかもしれせん。場合によっては、詐欺師症候群が助長されるかもしれません。

失敗と文脈を共有していく

「インスタ映え」っぽいコンテンツを配信しているからといって、いつも成功と自信に満ち溢れた日々を送っているわけではないと思います。ただ、様々な状況が見える機会が少ないかもしれません。日本でも失敗談を語り合う FailCon のようなカンファレンスが開催されました。また、UX Failcon というデザイナー向けのイベントもありました。集まれる場があるのは素晴らしいですが、場であるが故に時間と空間の制約があります。

特に東京以外の地域に住んでいると Web が主な情報の窓口になります。誰かがレポートを書いたり情報発信をしない限り、インスタ映えしたコンテンツだけが情報源になることもあります。

しかし「失敗についてもっと語りましょう」と言いたいわけではありません。せめて職場は失敗を許しあえる環境であってほしいですが、必要なのは失敗談ではなく文脈(コンテキスト)だと思います。

例えばプロトタイプを使ったデザインプロセスにしても、重要なのは使ったツールや成果物そのものではなく、いかにしてプロトタイプが使える環境を作り出したかという点です。PDCA がうまくまわるワークフローも、実は 1 年続けた模索の結果ということもあると思います。実際は泥臭く地味なことをしているかもしれませんし、一歩進んで二歩下がるということもあるでしょう。

デザインだけではないですが、仕事における多くの課題は、すぐに結果は出ません。わずか数千文字の記事を読むと、短期間で結果が出たかのように見えてしまいますが、中には数年かけてようやく型になり始めるものもあるわけです。

何かすればすぐに反応が来るソーシャルメディアとは異なり、仕事の変化は長く緩やかなもの。「〇〇をすれば、△△になる」というほど一直線で単純ではないわけですが、すぐに結果が出るものを求めてしまいがちです。あってないようなものを探し求めてしまうからさらに焦ってしまうのかもしれません。

iPad でとったメモセミナーの最初に、参加者からの質問や課題をメモにとっています。
これを利用して質疑応答や雑談することもあります。

Q&A をしたり、セミナー参加者に悩みや興味について聞いているのも、お互いが置かれている立場・文脈を理解した上で最適解を考えたいからです。べき論を語るのは簡単ですが、それであれば Web や書籍にたくさんあります。知りたいのは「何」ではなく、「なぜ」。「どうやって」というのも手法の使い方ではなく、そこに辿り着くことができた道筋です。

そんなのわざわざ書いたり伝えるのは面倒と思うかもしれませんが、本来そういったことも自由に語れることが Web の魅力ではと思っています。年齢・性別・経歴も気にしない。突発的に良し悪しの判決を下さず意見交換をする。ソーシャルメディアによって配信の敷居が劇的に下がったものの、心理的な敷居は逆に上がっているかもしれません。もしかすると、周りから Like されることが優先になっているのでしょうか。

まとまっていない漠然とした考えを伝える、課題を共有する、途中経過でも良いので見せていく … いずれも映えないですよね。

筆者について

Experience Points

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