キーワード 2012: Cultivate(耕作する)

ユーザーをかき集め、獲得数が評価に繋がるところは狩猟時代に似ているところがあります。中長期を見据えて人との関係を育てる農耕時代のような考え方を Web に取り入れることで、Web ならではの価値を提供できるようになるでしょう。

昨年「キーワード 2011」と題して注目のテーマを幾つか紹介しましたが、今年もやります。最初のキーワードは「Cultivate」です。農業に挑戦しようという意味ではなく、耕作するときのような視点と振る舞いをしようという意味が含まれています。このキーワードはデザイナーだけでなく、Web に関わる様々な仕事に通じます。

Webの狩猟時代は終わった

Web だけではありませんが、今までのビジネスは石器時代の狩猟社会に似ていると思います。顧客をたくさん獲得すること、ひとりでも多くの振り向いてもらうこと、自分たちの場所に集めること・・・これらは野生の動植物を採取していた石器時代の狩りと重ねることができます。Web でもページビューや会員数の価値は未だに高いですし、ソーシャルメディアだと言っても結局 Like 数やフォロワー数といった『採取数』が重要視されています。とにかくたくさんの人に注目してもらうにはどうしたら良いのか、という考え方は狩猟社会的な価値観かもしれません。

人の顔が見え難く、ひとりひとりのニーズを聞き入れることが難しい状況であれば、たくさんの人を『刈り取る』くらいしか出来なかったかもしれません。刈り取る、かき集めるという考え方であったからこそ、集めた後の人とのコミュニケーションという考え方も生まれなかったでしょうし、結局1回限りの関係を毎回繰り替えすという形になっていたのでしょう。

刈り取った数ではなく、ひとりひとりにどのような価値を提供出来るかがブランドに繋がることを解説した記事「企業の透明化がブランドを高める理由

狩猟社会には拡張性や持続性はありません。今いる土地を食いつぶして、次の土地へ移動することを繰り返します。

これは今までの Web ビジネスにも重ねることが出来ます。派手で魅力的なプロモーションサイトやランディングページを作って人を集めることができたものの、期間が過ぎたり、アクセス数が伸びないと、装いを変えてまた違うことをするというプロセスの繰り返しです。これでは狩猟社会と同様に拡張性も持続性もありません。こうした状況下で、1,000,000人アクセスがあったとしても、それは消費しただけに等しいわけです。

テクノロジーや Web サービスも、農耕時代の価値観に沿った使われ方をされています。ひとりでも多くの人に接触するために効率的かつ自動的に行うにはどうしたら良いのかという部分が強調されがちです。もちろん、テクノロジーや Web サービスによって効率化される部分、自動化される部分はありますが、人間が手作業でやらなければならない部分まで任せるわけにはいきません。

私たちは狩猟時代から農耕時代へ移行しなければいけません。

Web的農耕時代の捉え方

ここで言う農耕時代とは、ひとりでも多くの人を獲得する(刈り取る)のはなく、関係を築き上げることができる人を見つけ出し、育てることを指しています。たとえ採取した後でも日々のケアを欠かすことができない農作業のように、Web的農耕時代でもきめ細かいケアが成功に繋がります。

農業に関わる様々な作業は、テクノロジーによって軽減・自動化されているものの、作物と直接関わる部分は自動化されていませんし、人の感覚が欠かせないと言われています。それと同様、Web においても人との接点になる部分は自動化はできないわけです。

TopsyTopsyのようなサービスを使えば人々の声を手軽に集めることができます。

多くの作業が自動化・軽減することが出来るようになったからこそ、人との接点をどのように築いて、関係を育んでいるかという部分に時間とお金をかけることが出来るのではないでしょうか。情報発信だけでなく、フィードバックの取得も容易にできるようになりました。 Google だけでなく、様々なサービスにある検索窓に自分のビジネスのキーワードを打ち込むだけで、人々の反応を知ることが出来ます。今まで手作業でしていたこと、多額の予算が必要だったこともいつの間にか Web では低コスト又は無料で利用できるようになっています。自動化できる範囲は今年もますます広がるでしょう。「人との関わりを築くなんてコストが高過ぎる」なんて言っていられるのも今のうちかもしれません。

Web的農耕時代の捉え方を簡単にまとめると以下のとおりになります。

  • 「何人と関わっているか」のではなく「誰と関わっているか」
  • 農作業と同様に、中長期を見据えて取り組む
  • 耳を傾けることからはじめる
  • 接点をもつためのキッカケを見つけ出して行動する
  • ビジネスのためではなく、その人にとっての有益な情報を提供する
  • いきなり宣伝(刈り取り)しない

Webデザインの関わり方

Webに関わる人は、農耕時代的な考え方をどのように仕事に反映させれば良いでしょうか。もし Web サイトを作るのであれば、どのうようにすれば 農耕時代の価値に合ったものになるでしょうか。

昨年コンテンツコンテキストに関わる記事を幾つか執筆しましたが、この 2 つが、Web 的農耕時代に必要とされる Web サイトを構築に必須だと考えています。また、今年はこの 2 つがひとつになるはずです。つまり、コンテキストに合わせてパッケージングされたコンテンツを届けることが出来るサイト/サービスが顧客と関係を築き上げることが出来るようになります。

具体的な手法として、ソーシャルメディアの対応やモバイル向けのサイトを作るということになるかもしれません。しかし、その前にどのようなコンテキストが存在するのか、そして対応するためのコンテンツをもっているのかを探求していかなければいけません。上記にリストしたWeb的農耕時代の捉え方に沿って Web サイトをデザインをするとしたら、どうなるか考えるのも良いスタートになるかもしれません。

獲得する Web サイトではなく、耕作する(育てる)Web サイトとはどのような姿なのでしょうか?どのようなサービスと組み合わせることが出来るのでしょうか?どのような人材が必要とされるでしょうか? こうした疑問に応えることが今後の Web デザインが提供できる価値になるでしょう。

筆者について

Experience Points

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