WD101: Webは見た目のコントロールがきかない

「見た目を同じにすることは出来ない」という Web デザインにおける事実を前提に設計しなければいけません。利用者に権限があるという中での最適化と、価値をどのように提供するのかという見た目とは違うコントロールが必要になります。

このシリーズでは Web Design101(WD101)と名付けて、ウェブデザインをより深く理解するための最初の一歩になる知識やノウハウをコラム形式で紹介していきます。

Webにおけるコントロールの意味

DTPという名の足かせ

Webデザインはよくも悪くも DTP のノウハウを受け継ぎながら徐々に成長してきた領域です。今でも根強く残っている「ページ」という概念。タイポグラフィ・グラフィック・レイアウトなど DTP が培ってきたノウハウは CSS と HTML (ときどき JavaScript)を使って再現されたりしています。DTPの概念とノウハウがなければ Dreamweaver のようなソフトは生まれなかったでしょうし、Dreamweaver のようにコードを手打ちしなくても DTP 感覚で Web デザインに入り込めるソフトがなければ、Web デザイナーを職業とする方もこれほど増えなかったかもしれません。

しかし、DTP との関連付けがあまりにも強くなり過ぎたことで、Web という紙とはまったく異なる仕組みに対してデザイン(設計)しているのにも関わらず、DTP の感覚から抜けきれなくなったのも事実。Webサイトをまったく同じ見た目になるように努力するという風潮も、印刷すればまったく同じように再現できる紙のデザインの影響は強いでしょう。長年続いている IE6 への不満 にしても「同じ見た目に出来ない」というフラストレーションからきている部分は多いです。

よく Web に出回っている人気 Tips をみても、基本的に「モダンブラウザですべて同じように再現できる」が売りになっている場合がありますね。角丸まで jQuery でやろうとしているプラグインがあるのは少々行き過ぎのような気がします。こうした Tips が出回るのも同じ見た目を再現しなければいけないという考え方が今でも強く残っているからでしょう。

DTP の概念は Web サイトを作れる人材を増やしたという意味で大きく貢献しましたが、それと同時に Web をデザインするという意味で足かせになっていることもあるわけです。

見た目はコントール不可という事実

そもそも、すべての環境で同じ見た目を再現することは出来ません。デザイナーやコーディングをしている方がどれだけが努力しても、すべての環境で同じ見た目には出来ないわけです。昔は「全部画像にすれば良いよね」なんて冗談っぽく言っていた時期もありましたが、モニターの解像度やサイズでいくらでも違う見た目になる可能性があります。

見た目を同じにすることは出来ない。

これは Web デザインにおいての事実であり、Web をデザインする人はこの事実を前提に設計しなければいけません。

2009年に行った調査結果ですが現在にも通じる Web デザインに対する意識が見え隠れしています

厳しい言い方をすれば、サポートしているブラウザだけでも見た目を同じにしているというのも短期的な現状維持にしか過ぎませんし、クライアントに事実を隠す方法として用いているだけという場合もあると思います(そもそもサポートの対象が見た目という自体が妙な話だったりもするわけですが)。Webサイト制作者は同じような見た目に出来ないということを長年理解しており、Progressive Enhancement のような手法は最適な方法と考えているものの、具体的なアクションに繋げれないところは少なくありません。今までやってきている見た目を同じにするというサービスとはまったく違う概念が故に導入が難しいのかもしれません。

タイポグラフィ・グラフィック・レイアウトを駆使することで、第一印象をポジティブにすることは出来ます。しかし、それは一概にすべての利用者が得ることが出来る印象ではないわけです。

見た目のコントロールの考え方を変える

「タイポグラフィ・グラフィック・レイアウトに拘れなくて、何がデザインだ?」

そう考える方もいるでしょう。
タイポグラフィ・グラフィック・レイアウトに拘ることが出来なければデザインではないとすれば、それは大変狭い意味のデザインだと思います。本当にそこに拘って自分の思い通りのコントロールをしたいという方は Web は合わないかもしれません。デザイナーができる見た目のコントロールができる領域は微々たるもので、サイトを見ている利用者のほうに見た目の主導権があります。利用者はウィンドウサイズ、文字サイズ、時には画像を消すなどをして、自分の好みに合った環境に調整することが出来ます。私のサイトは記事ごとに少し見た目を変えたりしているわけですが、それと同時に読みモードという装飾をなくしたページも提供しているのも、利用者に主導権があることを理解した上での設計です。

「見た目のデザインに拘ってもコントロールがきかないなら、やっても無駄なのか?」

そう考える方もいるでしょう。
Webデザインの難しいところであり、同時におもしろいところは、デザイナーによる見た目のコントロールがきかない環境化でいかに最適化させることを考えることです。Webデザインにはスタイリングと柔軟性という2要素の駆け引きが常にあります。利用者に見た目に対する権限がある場合、デザイナーはどのように補助すれば良いのか・・・ということを考えなくてはいけません。

  • 利用者の行動の邪魔をするような制約を築いていないか
  • 文字サイズを変化しても快適に読めるか
  • 画像を消しても、利用者が欲しい情報には辿り着くことができるか
  • 画像がなくても、色やレイアウトなど別の要素でイメージを伝えているか
  • 見た目以外(例えばインタラクション)でサイトのイメージを印象付けできるか
見た目を同じにするのではなく、状況に応じた見た目の最適化をさせるということを意識したデザイン

このように DTP の概念をもったままでは、考えもしないような要素を設計しなければならないのが Web デザインです。デザイナーには見た目のコントールの全権限がない。しかし、そうした中で何をコントロールするのか、どの部分を最適化するのかを考え、設計することが Web のデザインだと考えています。

Webデザインでコントロールできること

見た目は完全にコントロール出来ません。

では、Web デザインにはコントロールできる余地がまったくないのかと言うとそうではありません。利用者の行動をどのように変えるかという部分はコントロールすることが出来ます。利用者のニーズやビジネスのゴールに辿り着くように、利用者を誘導するためのコントロールは出来ますし、彼等にどのような価値を与えたいかという部分もコントロールが出来ます。

IA、UX、マーケティング、ブランディングなど様々な領域が携わることになりますが、それを最終的に形として表現するのがデザイナーの役割です。それは単なる見た目だけに留まらず、インタラクション、画面遷移、情報配置、メッセージ(コピー)などがあります。見た目の完全な再現は難しくても、他の部分のコントロールも強化することで観覧中、利用後の印象が変わります。

見た目のコントロールに拘るのではなく、提供したい価値をどう形にするかに拘るというのが Web デザイン。恐らく、ほとんどの場合、最も提供したい価値はで見た目ではないはずです。先述したように第一印象や使い心地に見た目は大きな影響力を持っているので、重要ではないと言っているのではありません。ただ、提供したい価値が何かを軸にして考えた上で、その見た目のコントロールがどれだけ大事なのかという視点は必要だと思います。

筆者について

Experience Points

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