AIに代わって自分で要約することの価値

AIによる要約は便利ですが、十分に理解できない情報が増えるだけだと、ノイズだらけになって思考の役に立ちません。

AIに代わって自分で要約することの価値

私は、記事や文献を読むためにReadwise Reader というサービスを利用しています。このサービスには、AI機能が組み込まれており、記事の要約をワンクリックで提供したり、記事に質問することができます。特に、多量の内容を含む文献を読み解く際には便利ですが、実際にはそれほど頻繁には使用していません。AIの要約機能により、大量の情報を短く、効率的に取り込むことができるとはいえ、ほとんど記憶に残らない現状です。理解しきれない情報が増えていく一方で、本来役立つはずの要約がただのノイズに変わることもあります。

要約の活用方法は人により異なるのですが、私の場合、要約する過程で思索を深めることがよくあります。筆者が伝えたいと思っているメッセージは何か?なぜその結論に行き着いたのか?コンテンツから引き出される新しい問いは何か?以前読んだ情報との接点は何か?こうした問いに答えるために自分の言葉で言い換えながら要点をまとめていきます。

つまり、自分にとって要約を AI に『アウトソース』するのは、思考するのを止めているのと等しいと感じています。

米国の著述家であり歴史学者である David McCullough(デヴィッド・マカルー)はこんな言葉を残しています。

Writing Is Thinking. To write well is to think clearly. That’s why it’s so hard.
書くことは思考すること。良い文章を書くとは、明確に思考することを意味します。だからこそ、それは難しいのです。

時間を使って考えることに専念するよりも、新しい情報を大量に収集した方が有益だと思われるかもしれません。しかし、現実は、情報を獲得したという一時的な満足感を享受しているだけで、それが自分の知識に深く定着する(記憶に残る)ことは少ないです。情報は量よりも質が重要で、その質は出会った情報とどのように時間を過ごすかによって決まります。

私が選んだ情報との接し方は「書く」ことですが、初めの頃は筆を進めるのが難しかったです。仕事では資料作成やドキュメンテーションの執筆を行い、私生活でもブログのような記事を書いていました。つまり、私にとって「書く」とは、他人にとって有用な情報をアウトプットする行為だと認識していました。この先入観を捨てるのに一苦労でしたが、今では何かが頭に詰まっていると感じたときには、書き始めるようにしています。

気づいたことをメモ
アウトライン形式で書き出しています。

例えば、クライアントから資料が共有された際には、何を理解できたか、何が疑問に思えるかを記録するようにしています。また、まだ完全にまとまっていない中途半端なアイデアも書き残しています。このような文章は情報がまだ整理されていないかもしれませんし、書いた自分だけが理解できるものが多いです。頭の中にモヤモヤと残っているよりは、書き出すことで「これについて考えるべきだ」という次の行動が見えてくることがあります。

会議の際もノートアプリを開き、メモを取ることがあります。理解を深めるために重要なのは、他人が述べたことをそのまま記録するのではなく、それを自分の言葉に置き換えることです。このように時間を過ごすことで、思わず意見を出すことが少なくなり、相手が伝えようとしていた意味への理解を深める機会が増えています。

このような書き出す活動は、個人だけでなく、チーム全体でも行われてます。私がクライアント先で指導しているデザイナーに対しては、「下手でも良いから書き始めてみよう」と助言しています。自分だけのスペースを設けることができないSaaSを使っている組織では、「Sandbox(砂場)」という空間を作り、書き出すための場所を提供することもあります。

Sandboxスクリーンショット
解決策がないものでも、まず書き出す。

ツールはノートアプリでなく、Miroのようなホワイトボードを使用する人もいます。私も難しい概念に出会したときは GoodNotes を開いて図を書き始めることがあります。大切なのは思考を書き出すことで、情報の構造を意識して文章を作ることではありません。始めは面倒だと感じる人も、書くことで思考が整理されると感じ始める人もいます。また、私自身にとっても、他人がどの点に注目して思考しているのか、その思考過程を理解するのに役立っています。

チーム全体で共有できるスペースに書き出すのも一つの方法ですが、まずは誰もアクセスできない場所で書き始めることを推奨します。アウトプットの形式を気にせず、まずは言葉にする練習から始めてみるのはどうでしょうか。

ブログを書いている私がブログを書かなくて良いと皆に伝えたい理由
ブログやソーシャルメディアとはまったく違う時間の流れの中で、自分の知識が育てられる場所を作ってみてはいかがでしょうか。
Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。