AIにはない「人間性」ってなに?

私たちはAIにはない合理性と知恵を備えていますが、これらを十分に発揮できるかは、感情、認識、教育、経験などに大きく左右されます。

AIにはない「人間性」ってなに?

分かるようで、分からない「人間性」

昨年は AIを使っていろいろ実験していました。その中で、自分の仕事の将来だけでなく、人間性についての哲学的な問いを考える機会が増えました(哲学の知識は浅はかですが)。よく「AIは単なる道具だ」とか「人間にしかできない仕事が重要になる」と聞きますが、AIの可能性が広がる中で、私たち人間の役割について思いを巡らせるようになりました。

特に気になるのは「人間にしかできない」という言葉です。確かに人間特有の能力は存在しますが、実際に私たちはその人間性を生かして働いているのでしょうか?特にデジタルプロダクトの世界では効率化や標準化が重視されているので、多くの作業が機械化・自動化できます。

感情移入するボットとの対話
感情移入しているかのように、会話に付き合ってくれるボットの例。丁寧なやりとりができることが「人間性」とは言えないようです。

AIにはない「人間性」という曖昧な表現について考えることは、モヤモヤしつつも時間をとって考えたほうが良いと思います。これを把握しないと、AIの使用方法や役割分担を誤ってしまう恐れがありますし、私たちの強みを十分に活かすこともできなくなるでしょう。

仮説ですが、現在のAIが持たない人間の強みとして「合理性(Rationality)」と「知恵(Wisdom)」が挙げられます。これらはAIにはない、人間特有の能力だと思います。

文脈を踏まえた判断

合理性と知恵は似ているようで異なる概念です。合理性はデータや証拠に基づき、客観的に意思決定を行うことです。一方、知恵は単なる情報や知識にとどまらず、深い理解とインサイトを含むことです。

これらは人間固有の特性を表していますが、中には「AIでも可能」と考える人もいると思います。例えば、合理性がデータや証拠に基づく行動であれば、感情を持たないAIの方が人間より客観的な意思決定をする可能性があります。また、膨大なデータをもっていれば、AI でも知恵を帯びたインサイトは導けるかもしれません。

情報を処理し、データを分析し、論理的なアルゴリズムに基づいて決定を行うことが合理性であれば、AI でもできるかもしれませんが、合理性は必ずしも客観的に意思決定をすることだけを指すわけではありません。意思決定をすることによって、どのような影響を周りに及ぼすのか、短期的な効果・成果だけでなく、中長期視点も欠かせません。

同様に、知恵も単に情報を知っているだけでは不十分です。人や社会との関係性への深い理解が必要です。また、感情、道徳、倫理、長期的な先見の明、経験などを組み合わせて昇華する能力も求められます。これらは現在のAIが再現や完全に理解するのが難しい資質です。

合理性と知恵は、単に情報を知り、判断するだけではなく、その状況や周囲との関係性を理解することが不可欠です。

状況によって判断が変わることは身近でもたくさんあります。例えば、スーパーでの買い物を考えてみましょう。同じ商品を購入する場面でも、予算、時間、健康状態などによって判断が変わることがあります。さらに、新しく得た情報や直前の出来事も判断に影響を与えるかもしれません。私たちは、情報を受け入れるだけでなく、多くのニュアンスを考慮して行動しています。

合理性と知性を育む

今のところ、合理性と知恵はAIにはない「人間性」と言える要素かもしれません。しかし、実際にこれらを活用した仕事を自分はしているのかというと回答に悩みます。自分の仕事がなくなるかもしれないという漠然とした不安は、合理性や知恵を使う機会が少ないことが原因かもしれません。

仕事でこれらの能力を活用するためには、何をすれば良いでしょうか。例えば下記のようなことが考えられます。

  • 教育と継続的な学習: ただ情報をインプットするだけでなく、情報を自分の言葉で解釈する機会をつくります。自分の言葉にすることで、また新たな問いが生まれ、次に学ぶことは何か分かることがあります。
  • 批判的思考を養う: 批判的思考スキルは、より合理的な判断するために役立ちます。批判的思考によって、前提の問い直しや情報の評価、異なる視点の考慮が見出せるようになります。
  • 感情や不条理性の理解:感情がどう思考にを与えるか認識すること。これは単に関連書籍を読むだけでなく、マインドフルネスやジャーナルを通した自己の振り返りから得られることもあります。
  • 多様な視点に触れる: レコメンデーションで流れる情報だけでなく、異なる視点や文化に触れること。オンラインよりオフラインで人に会うとより刺激的です。
  • 倫理教育と道徳的推論: 特にAIが注目されるようになって、倫理や道徳に関連する文献や記事が増えています。もちろん、デザイン分野からインプットしてみるのも手段です。

私たちは合理性と知恵を備えていますが、これらを十分に発揮できるかは、感情、認識、教育、経験などに大きく左右されます。現在のAIは合理性の一部、特に客観的判断を模倣できますが、文脈や経験からの学習に基づいた知恵と、状況に合わせた判断はまだできません。

小難しいことを考える前に、ツールを活用して試すことも重要です。しかし、「人間性」という曖昧な概念に向き合うことで、AIとの関わり方や時間の使い方が変わるかもしれません。私は合理性と知恵が人間性の一部であると考えていますが、異なる見解もあるはずです。ぜひ、皆さんも考えてみてください。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。