コンテンツから先に考えなければデザインすらできない理由

ワイヤーフレームの間違った使い方

たまにリニューアル案件をいただくときがありますが、見た目より先にコンテンツを整理しましょう、一緒に作っていきましょうと説得するようにしています。このサイトでも様々な角度からコンテンツの重要性を語ってきましたが、最もシンプルな方法は「UX を考えていきましょう」「モバイルファーストで戦略を練っていきましょう」といった専門性の高い言葉を使うのではなく、今までのやり方ではうまくいかないということを分かりやすく説明することです。

ワイヤーフレームの理想と現実

従来の Web サイト制作でよくあったのが、まずワイヤーフレームをつくって情報の大まかな構成を設計するというやり方。ワイヤーフレームを作ることは間違っていませんが、コンテンツを作る前に始めてしまうと、あとで大きなギャップを埋める作業が発生することがあります。コンテンツなしで構成を作り始めると、例えば以下のような状況に陥ります。

  • 文字が多過ぎて入らない(又は少なすぎて不自然な空きができる)
  • 想定通りに均等にコンテンツが入らない
  • 2行、3行と増えたときの対処が考えられていない
  • 利用者の行動を促す導線を検討する余地がない

Web は紙媒体とは違うとよく言っていますが、雑誌から学べるところがあります。それは、雑誌は必ずコンテンツからスタートしている点です。雑誌の制作プロセスは中身もないのに表紙から作り始めることもなければ、原稿があがる前にレイアウトを作り始めることもありません。

大まかなシステムを作るところから始めることができる、まずは形にすることができるのが Web の利点ですが、それ故にコンテンツが後回しになりがちです。雑誌に例えるなら、中身が何も決まっていないのに、表紙を作ったり、空レイアウトを作っているようなものです。それとなく綺麗に作ることはできますが、中身がないので利用者のためにならない上、使いものにならない仮説を作っているだけになります。

現実を無視した理想的な提案

ワイヤーフレームは間違った印象を与えてしまう可能性がありますが、ビジュアル要素が豊富なデザインカンプもおなじです。デザイナーの手によって作られた素敵な画像がトップページの目立つところに配置されることがありますが、様々な課題がそこには隠れています。

キャッチ画像に隠された様々な課題

  • 他に使える画像はあるのかどうか?そもそも誰がつくるのか?
  • 企業ブランドを保ったデザインをどのように作ればいいのか?
  • 画像に添えるメッセージは誰が考えるのか?
  • どれくらいの期間使うのか?次に更新はあるとしたらいつ?

デザイナーが社内にいれば上記の問題はある程度解決しますが、それでも外注先のデザイナーと同じ感覚とスキルをもっているとは限りません。また、サイト更新ができる人材を社内に抱えていたとしても、デザインまでできる人がいない場合もあります。制作陣の手から離れた途端にデザインの質が低下するのもそれが原因です。

デザイナーによって作り出された『理想郷』は、オープン時は形通りになるかもしれません。しかし、そのあとの現実が考えられていないまま、見た目のインパクトや漠然とした印象の話が中心になり、コンテンツの運営の課題が後回しということもあります。

それでもできることから

コンテンツが何も用意されていない状態で、レイアウトを考えるのは危険です。しかし、だからといって完成するまで指をくわえて待っているのも良くありません。ターゲットにする利用者のためのコンテンツが何かを定義し、整理、設計、制作の手伝いをするのは我々の役目です。また、従来のようなデザインカンプにしなくてもスタイルガイドを作り始めるなどできることは幾つかあります。

コンテンツがないまま工程を進めることが良くないのではなく、コンテンツを後回しにして表層的なレイアウトデザインをはじめたり、コンテンツ運営が難しい設計をしてしまうことが危険だということです。それを伝えるためにも上図のようなワイヤーフレームの理想と現実は伝わりやすいと思います。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。