公共機関が必要なのはWebサイトではなく配信チャンネル

とにかく数が多い公共機関サイト。柔軟性が低く、動きが遅い Web サイトが今必要とされているのでしょうか。現在の情報の流れの変化に対応するためにソーシャルメディアの利用は適したアプローチです。特定のツールに捕われず住民に近づくためのコミュニケーションが必要とされています。

佐賀県武雄市が市のページをFacebookへ移行することで話題になっています。ニュースは「市長がはまっている 佐賀県武雄市、市のページをFacebookに完全移行へ」というキャッチーなタイトルが付いていますが、現在の Web サイトの情報は今後アーカイブとして残るみたいですし、会員登録をしなくても Facebook の情報は観覧出来るので、利用者・住民には大きな隔たりはないかもしれません。

公共機関が Facebook を中心とした活動をする、というのは武雄市が最初ではありません。インド デリー市の警察署は、住民から交通ルール違反をしている車・バイクの情報を募集しています。摘発した乗用車の登録番号を発表して、活動を随時知れるようになっています。

日本フェイスブック学会というグループを立ち上げるなど、武雄市は Facebook 熱が高いのでこうしたアプローチをとったという考え方も出来ますが、それだけではないと思います。これは、現在の公共機関の Web サイトの限界が生み出した結果ではないかと考えています。

今のスピードに付いていくためのスキーム

国・県・市町村の Web サイトに限ったことではないですが、多くの Web サイトは CMS を導入しています。つまり、Webサイトの更新自体はそれほど難しい作業ではないわけです。しかし、CMS を活用して機関の構造を明確にした設計では、運営が難しい場合があります。

構造上では平等に扱われているものも、住民のニーズや対応に必要とされるスピード感は部署ごとに異なり、組織図のようにキッチリ決まるものではありません。しかし、現状多くの公共機関 Web サイトは組織図を基にした構造になっており、本当に必要な情報は奥にある場合があります。トップページにショートカットを設けて、少しでも簡単に情報に辿り着けるような工夫がされていることもありますが、Webサイトの操作は基本的に機関の構造を把握していることが前提になっています。これでは自分のニーズを基に情報を探すのは困難です。

人の欲しい情報は構造化されているわけではありません。また、緊急で情報を発信しなければならない、例外パターンで情報を掲載したいと考えた場合、あまりに構造化された Web サイトではかえって制約が多くなってしまいます。一刻もはやく、住民が欲しいと考える情報を届けるには『重装備』な Web サイトより Facebook をはじめとした軽量・柔軟でスピード感のあるソーシャルメディアのほうが適しているのでしょう。

動きがないわりには数は多い公共機関サイト

とにかく数が多い公共機関サイト。健康保険に関する情報も、国・県・市町村とそれぞれ情報を掲載しており、どの Web サイトで情報を得たら良いのか分かり難いです。組織と情報の紐付けという意味では国・県・市町村で振り分けられているのは当然でしょう。しかし、私個人という視点から見れば組織構造なんて関係ないこと。国・県・市町村関係なく、知りたいのは「健康保険に関する疑問」それだけです。家族や知り合いに聞けば、どの公共機関に問い合わせれば良いのか分かるかもしれませんが、組織構造を Web でそのまま継承するが故に、どこに何があるかあやふやになっている可能性があります。

国・県・市町村 といった大まかな分類だけでなく、それぞれの機関は部署で細分化され、情報が重複している場合もあります。

あるべき情報はひとつでも、構造を守るが故に情報が散漫しているのが現在の公共機関 Web サイトではないでしょうか。とりあえず Web サイトはいるよね・・・という従来の考え方を引き継いだ結果が今のような状態を生み出しています。

いろいろ探してみると、なぜこれを公共機関の Web サイトとして立ち上げているのか分からないのがたくさん出てきます。

2010年で更新が止まっている リウマチ・アレルギー情報センターをわざわざ go.jp ドメインで運営する必要があるのでしょうか。リウマチ・アレルギーの情報が重要ではないと言っているわけではありません。こうした Web サイトをわざわざ立ち上げて、運営もされてないまま重要な情報が眠り続けていることに疑問を感じるわけです。情報の流れは既に変化しています。自分の場所に情報を掲載して待っていても誰も訪れることはありません。人がいるところに直接情報を届けるための仕組みがなければ、その情報は存在しないに等しいわけです。

莫大な予算をつかって Web サイトを構築する絶対的な理由は今はないと思います。住民に必要な情報を届けるという目的を達成出来るのであれば、形は何でもいいわけですし、住民との距離が短いソーシャルメディアのほうが情報が届いているという感覚をよりリアルに実感できそうです。

縦割り組織ならそれぞれ身軽に

日本に限らず、公共機関は縦割り組織になりがちです。隣の部署で何をやっているか分からないので、情報の重複にも繋がりますし、『たらい回し』になる可能性もあります。こうしたネガティブな効果も縦割り組織にはありますが、決められた予算の中であれば他部署との根回しをすることなく、ある程度自由に活動出来るのはメリットです。

少ない予算で小さなことをスタートするための Web ツールやテクノロジーは数多くあります。どのコミュニケーションチャンネルが住民に届きやすいのかはケースバイケースです。とりあえず初めてみて、マッチしないのであれば別のツールを使ってみるという身軽さがあるのも Web ならではです。公共機関全体で足並みを揃えることなく、『公式 Web サイト』なしでも独自のコミュニケーションチャンネルをもつことが可能です。

The Daily Pothole例えばニューヨーク市運輸局は、道路にできた穴や損傷の工事のレポートを Tumblrで配信しています。公式情報へのリンクはありますが、工事の模様や工事の要望などすべて Tumblr でみることが出来ます。部署が配信したい情報を自由なかたちで配信できるだけでなく、どのような仕事をしているのかを知らせることで情報の透明化に成功しています。

こうしたサイトを公共機関のWebサイトで公開出来るかもしれません。しかし、思いついたときにすぐに始めることは出来ないでしょうし、トップページから辿り着けるかも分かりません。それより、無料ですぐに始めれる Tumblr から住民に少しでも近づけるようなアプローチのほうが適しているでしょう。

住民に近づくための情報配信

検索性・アーカイブ力が劣る Facebook の利用が、武雄市にとってマッチするかどうかは正直なところ分かりません。しかしながら、担当者が埋もれている情報を引き出したり、まとめたりするような作業を行うことで、検索がしにくいところは解消されるかもしれません。

ツールが違えば、コミュニケーションの仕方も変わりますし、情報のパッケージングの仕方も変わります。Facebook に固辞することなく、様々なツールの利用に挑戦して欲しいですし、各部署も住民がどこにいるのかを把握した上で適したツールをつかって情報の透明化を推進していって欲しいです。

筆者について

Experience Points

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