自己陶酔にならない、伝わるプレゼンのヒント

伝わるプレゼンには、来場者を理解する、良いを理解する、メッセージを理解するという3つの理解が必要です。理解を深めることで、自分の「良い」という視点を解体し、相手にも分かるように組み立て直すという考えを養うことができます。

2014年11月から2015年1月にかけて、青森で『プロから学ぶ「伝え方」講座』というレクチャーシリーズが開催されました。日本マイクロソフトの春日井良隆さん、西脇資哲さん。株式会社スイッチの鷹野雅弘さんという錚々たるメンバーの中に私も講師として参加させていただきました。私もセミナー・ワークショップは場数をこなしているいますが、他の方々は桁ひとつ違うくらい講演しているベテラン陣。プレッシャーもありましたが、参加者のプレゼンの審査を含めて良い経験になりました。

自分中心になっていないか

プレゼンテーションのスライドは SlideShareSpeaker Deck へアクセスすれば、たくさん見ることができます。また、TED のように、動画でしっかりプレゼンテーションを見ることもできるようになりました。セミナーへ足を運ばなくても、情報を得ることができるのが魅力ですが、こうしたサービスには負の影響もあります。

ひとつは、講演者がオンラインで共有することを前提に作ってしまう点。これ自体は悪くありませんが、来場者以外でも分かるようにするあまり、必要としない情報をスライドに盛り込んでしまうことがあります。共有することが先立ってしまい、会場にわざわざ足を運んでいる来場者には適したスライドになっていない場合があります。スライドを朗読しているだけというプレゼンテーションでは伝えたいことも伝わりません。

SlideShareに特化したコンテンツ例SlideShareでは講演で使用したスライドではなく、SlideShareで公開することを前提にした独自コンテンツも公開されています。

もうひとつは、プレゼンテーションの目的が『魅せる』になってしまうことがある点。Speaker Deck にある素敵なスライドデザイン。TEDで見かけたダイナミックなパフォーマンス。それらを真似してプレゼンテーションを構成することで品質は上がるかもしれませんが、「すごいプレゼンをしてい自分を見てくれ!」という考えが見え隠れする発表になることがあります。自分がどれだけ工夫したのかをわざわざ舞台で公言するプレゼンテーションも見たことがあります。格好良さや面白さを優先するあまり、来場者には「?」なことになっている場合もあります。

発表者の誰もが「きちんと伝えよう」と努力しています。しかし、登壇する、スライドを作るという行為が、視線を来場者ではなく自分のほうへ向けてしまうことがあります。

「良い情報をもってきたよ」
「誰も知らないような知識を伝えるよ」
「上手に情報をまとめてきたよ」
「わかりやすいスライドをカッコよく作ったよ」
「面白い話になるように工夫したよ」

誰かに何かを伝えようとしているようで、実際は何かをプレゼンテーションしている自分が中心になるような内容になることがあります。ここを改善しなければ、どんなに練習しても、スライドを作り込んでも伝わりません。

理解できる「良い」をプレゼンしよう

伝わるプレゼンテーションを作る鍵は、自分が「良い」と思っていることは、自分が分かる言葉で「良い」と言っても伝わらないことを知ることです。これはデザインの会話でも同様のことが言えます。感情的な良し悪しではなく、相手が納得できる十分な裏付けを基にして「ここが良いんです!」と語る必要があります。

自分が考える「良い」をありのままに伝えるだけでは、独りよがりになりがちです。自分が良いと思うことを、とにかく言い切った!では自己満足もいいところ。来場者でも理解できる「良い」は何かを探す必要がありますし、そのためには来場者がどんな人なのかはあらかじめ知っておく必要があります。

参加される方を知ることによって、使う言葉や、絵柄を変えなければならないことに気づきます。同業者でも伝わる英文・カタカナ用語を、中小企業の Web 担当者にそのまま伝えても意味がありません。何を話したいかを考える前に、誰が来るのかを調べておくと、来場者に向けたプレゼンテーション構成になりやすいです。

ひと昔は「綺麗なスライドですね」と褒められるときがありました。嬉しい反面、肝心のメッセージは伝わっていないと感じることがありました。最近は来場者の方に「行動のためのヒントが見つかった」という声をいただくことが増えたのも、伝え方を「自分中心」ではなく「来場者中心」に変えることができたからだと思います。ちょっとした違いですが、スライドの作り方や話の構成の仕方に大きな影響を与えました。

講座では、伝わるプレゼンに必要な「3つの理解」を事例を交えて紹介しました。

  1. 来場者を理解する
  2. 良いを理解する
  3. メッセージを理解する

イベントを通して自分のプレゼンテーションを言語化することができましたが、改めてデザインプロセスと似ていると思いました。デザインも多くの時間は「理解する」ことに時間を費やします。利用者のこと、市場のこと、テクノロジーのこと、ビジネスのこと … これらのことを理解してようやくデザインができると思います。スライドを作って練習するのも時間がかかりますが、その段階に達するための準備に時間がかかりますし、理解するための時間をかけることで質が大きく向上します。

理解するというプロセスは終わりがありませんし、時には間違った仮説を立ててしまうこともあります。改善点は尽きませんが、それでも魅せるプレゼンがしたいという考えを止めてくれます。そして、自分の「良い」という視点を解体し、相手にも分かるように組み立て直すという考えを養うことができます。

次回どこかでプレゼンテーションをするときは、「理解する」ことから始めてみてはいかがでしょうか。

セミナースライドの表紙

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
社内勉強会、イベントでの登壇の依頼は、メールか Twitter メッセージからお願いします。

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