AIとデザイナーの関係をポジティブに考えてみた

今のデザインは、データを操ったり利用者の行動を学ぶためのシステム作りに入り込みきれていません。時間と手間で諦めていた可能性を模索できるようになるはずです。

本当に脅威だけなのか

既に来ている機械化の波とデザイナーができることで、私たちが使っているデザインツールにも AI が使われていることを紹介しました。2017 年版の Photoshop には人工知能を活用した機能が実装される噂もあります。デザイナーが人工知能と一緒に働くことは、遠い未来ではなく、今起こっていることと言えるでしょう。

AI や機械学習は、仕事を奪う脅威と言われています。これから 20 年間でおよそ半分の仕事が AI によって入れ替わるという話もありますし、クリエイティブの仕事だから絶対安全とは言えません。特にただ作るだけという製造業に近いデザインワークは減少することになるでしょう。コーディングもそうで、pix2code のようにスクリーンショットからコードを生成する技術もでてきています。

「作る」という行為をデザイナーの仕事と定義してしまうと、先は明るくないかもしれません。しかし、作るだけがデザイナーの仕事ではないはずです。特に私が AI や機械学習に注目しているのは、デザインプロセスにある「発見」「模索」が劇的に改善される可能性がある点です。

無数の可能性を考える

今まで手作業でやっていたことを機械化することで、膨大な量のコンテンツを作り出すことができるようになっています。例えばゲームの世界では、Procedural generation(自動生成・プロシージャル生成)によって、今まで考えられなかった大きさとバラエティに富んだ世界を作り出すことが可能になりました。プロシージャル生成とは、手作業でモノを作るのではなく、ある特定のルールの中でプログラムがモノを生成する技術です(ランダム生成と呼ばれるものも、場合によってプロシージャルと呼ぶことができます)。

プロシージャル生成は、最近出てきた新しい技術ではありません。「Diablo 2」のような 20 年近く前のゲームでもプロシージャル生成によって毎回違うマップとダンジョンを生成しています。年々できることも増えてきており、2016 年にリリースされた「No Man’s Sky」はプロシージャル生成によって18京の惑星がゲーム内にあると言われています。「Vermintide – Together to the End」では、プレーヤーの動きを人口知能が学習し、それに合わせて様々なタイプの敵を生成しています。

No Mans Sky のスクリーンショット

ゲームで使われているようなプロシージャル生成は、デザインでも活かすことができるはずです。今のデザインは、データを操ったり利用者の行動を学ぶためのシステム作りに入り込みきれていません。デザイナーが機械学習という新しい『武器』を手にいれることによって、今まで時間と手間で諦めていた可能性を模索できるようになるはずです。

ターゲットにしている利用者、目的、利用シーン、UI コンポーネントといった様々なデータを設定して、数十、数百の可能性を瞬時に生成できるようになるでしょう。その中から最適なものと考えられるデザインをデザイナーの知識と経験を利用して選別したり、より適切な提案ができるように機械学習をチューニングしていくのもデザインの仕事の一部になるかもしれません。

今まで見えていなかった可能性を示してくるという意味で、AI との協働はデザイナーとしてエキサイティングなことです。AlphaGo は、今までの囲碁では考えられない一手を踏んで対戦相手から「(クリエイティブで)美しい」と評価されました。囲碁だけでなく、デザインでも私たちに思いがけない視点を AI が提供してくれるはずです。

数百のデザインパターンを瞬時に生成するといった世界は少し先かもしれません。しかし、膨大なデータから最適なものを探し出す(発見)することは未来と呼ぶほど先ではないはずです。例えば、Quick, Draw! のような落書きを綺麗に『整形』してくれるツールがあります。こうした技術によってキーワード検索ではなく、数秒で描いた絵で探すことも考えられます。Face API – 顔認識Emotion API のような技術を活用すれば「窓際で物思いにふける 40 代日本人女性」といったキーワードで適切な画像を探せるようになるはずです(音声検索したら、グラフィックツール上に表れるとかもありそう)。

デザイナーの仕事にプラスになることは他にもいろいろ考えられます。

  • 与えられたデータに応じて様々な可能性を提示して、選択、組み合わせ、再設定ができるようになる
  • デザイナーの目的だけでなく、熟練度によってインターフェイスが調整できるようになる
  • デザイナーの行動を予測した提案をしたり、言葉では表現が難しいモノ・コトにも応えられるようになる
  • 仕様や媒体に応じて「これはできない」「こんなデザインも必要」というアドバイスがある

まとめ

Amazon Echo のように生活に密着した人工知能を実装したプロダクトは既に存在しますし、その数はますます増えていくでしょう。人々の生活だけでなく、コンピュータとの関わり方を大きく変えるわけですから、デザイナーは脅威と戦々恐々している場合ではありません。むしろ、デザイナーに新たなデザインの課題を提供していると捉えるべきですし、私たちの仕事をより便利にしてくれる部分もあります。

デザイナーやデータサイエンティストが人工知能をデザインする日もそう遠くはないはずです。人々の生活への影響はより大きなものになるわけですから、責任はさらに大きくなるかもしれません。デスクトップパソコンの時代から比べると、人とコンピュータの距離は随分短くなりました。短くなってきているからこそ、より人の行動・欲求・体験に注目したデザインが必要とされるのでしょう。そのとき、私たちが AI をどう活用するかで結果が大きく変わりそうです。

筆者について

Experience Points

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