なぜ緊急時になるとデザインが崩れるのか

UFJ銀行の緊急告知本日話題になった銀行サイトの緊急メッセージ。このように緊急時になるとサイトデザインからかけ離れたコンテンツエリアを貼付けるサイトは少なくありません。

サイト運営は大事業

コンテンツの仕事に携わる海外のプロフェッショナルと情報交換をすることがありますが、最初驚いたことが運営人数が圧倒的に違うところ。日本で、ひとりかふたりの「Web担当者」が運営しているサイトの規模だと、海外(特に欧米)の場合、 10 人前後のチームを抱えていることがあります。10人前後の Web チームが存在するのは、メディア・パブリッシングのようなコンテンツの掲載頻度が高いサイトに限らず、様々なジャンルで同じことがいえます。大企業の Web サイトだとおもっと多くの人を抱えていることがあるそうです。

Web チームの仕事は企業によって異なりますが、共通して以下のようなタスクがあります。

  • コンテンツ制作から掲載までのワークフローの調整
  • Web へコンテンツを掲載するための最適化(マークアップ含)
  • 掲載に必要な写真や図などの素材制作
  • ガイドラインに合わせてデザインを調整

当然、日本の Web 担当者もこうしたことを毎日やっているわけですが、海外の状況と比べると圧倒的に数が違います。日本では、大きめのサイトでも、毎日のサイト運営に関わっているのは一人だけというのを耳にしたことがあります。大きめのグラフィックをこまめに更新していたり、ソーシャルメディアとの連携を積極的に行っている海外事例を見かけますが、これと同じことを今の日本でするのは現実的ではないかもしれません。

なぜ、海外では運営のためにこれだけの人数を抱えているのかというと、スピードと安定性を確保するためです。

緊急の告知をサイトに掲載する際、制作を担当した外注先に連絡してやりとりするのでは、あまりにも遅すぎます。日本の大企業の場合、制作会社と直接やりとりしていない場合もあり、間に代理店が入ることがあります。こうした二重三重のコミュニケーションの壁があると、早く的確なコンテンツを掲載することができなくなります。内容だけでなく、見た目もしっかり統制したいのであれば、内部でチームを抱えたほうが効率的かつ確実ということです。

日本でも運営をするために十分なリソースを抱えた Web チームを社内で作る動きがでてきていますが、まだ始まったばかりです。

デザインができない運営

運営のためのリソースが少ないのであれば、コンテンツを掲載することで精一杯になるのは当然のことだと思います。しかも、Web 担当者が企業のブランドを意識してデザインができる能力があるとも限りません(一人であればなおさら)。それを解決するための CMS やスタイルガイドではないかという意見もあると思いますが、それだけではうまくいきません。

CMS やスタイルガイドは、アウトプットする際の『枠組み』です。なくてはならない存在ですが、それを明確なルールや意向を示して、執行するのは担当者(又は Web チーム)の力量と直結します。他の部署や責任者から様々な要望を受ける Web 担当者ですが、それらを素直に受け入れると、サイトの構造もデザインも、たちまち破綻してしまいます。お客様のための Web サイトと建前で言っていても、実際は社内調整のためのサイト構成になってしまうこともあります。

時には「NO」と言い、代替案を出すようなことをしなければいけませんし、「NO」の根拠も説明できる立場でいる必要もあります。デザインプロセスには、数々の NO を言い通す(言い続ける)場面がよくあります。「デザインができる運営」とは、素敵なバナーが作れる能力ではなく、企業のブランドや運営ガイドラインに沿って「NO」と言い、「YES」になるコンテンツ配信をするだと思います。

これは、極少人数で奮闘している Web 担当者には酷なことです。
もっと深く関わりたいと思っている制作者にとっても辛い話です。
まだまだ Web サイトは張り紙看板と同じような見方をされているということだと思います。

素晴らしい技術や手法が海外から流れ込んできても、結局活かされないまま終わるのは、こうした運営と仕事関係という根本的な課題をクリアにしていないからなのかもしれません(スタートアップは上手くやっていますが)。コンテンツの仕事は、深刻な課題ながらも『放置』されている、運営の改善に力を貸すことができると考えています。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。