ところで「体験」ってなんですか?

Daniel KahnemanThe riddle of experience vs. memory

Using examples from vacations to colonoscopies, Nobel laureate and founder of behavioral economics Daniel Kahneman reveals how our “experiencing selves” and our “remembering selves” perceive happiness differently. This new insight has profound implications for economics, public policy — and our own self-awareness.

「よりよい体験を提供する」

という言葉を耳にすることがありますが、体験と一言でいっても捉え方によって様々な意味があります。行動経済学の立役者として知られているダニエル・カーネマン (Daniel Kahneman) が TED で独特な視点で人の幸せについて講演しています。彼の専門分野である行動経済学に関する話ではなく、人の根本的な部分の話をしている時点で私の興味を引きましたが、体験についての考察も含まれていたので勉強にもなりました。

実は私たちがひとことで片付けている体験は2つの自己によって形成されており、その体験を基に自分が幸せか実感しているそうです。しかし、それぞれを分けて考えずに混同してしまうと勘違いを起こしてしまうこともあります。

異なる自己が互いに影響しながら幸せかを判断している

「Experience Self」という今この瞬間を経験する自己と「Remembering Self」という記憶を辿る自己。例えば素晴らしい音楽が流れていても、酷い終わり方だと「これは本当に駄目な音楽だ」と評価することがあります。しかし、よく考えてみると終わりに近づくまでは素晴らしい音楽で自身は良い体験をしていたはずです。よい音楽であったという記憶は、この場合は適応されず、その瞬間を壊された経験が残った結果になります。以前、よくない経験をしたのであれば、なかなか同じことに挑戦出来ないこともあるでしょう。それなりに良い体験をしていても過去の記憶が邪魔をして十分に楽しめないという場合もあるはずです。

いずれの自己も密接に繋がりあり、影響を及ぼしています。カーネマンは講演で幸福のためのヒントを幾つか挙げています。

  • 記憶は物語として残るので、物語に良い結末をつくること
  • 今している経験に良い点を幾つか見つけること
  • 何を思い出すのかではなく、どのように思い出すのかが重要

十数分という短い講演ではありますが、自己と幸福についてさらに深い考察が含まれており、ここで書いている解説がすべてではありません。しかし、私たちが何気に使っている「よい体験」という言葉は複雑で難しい課題であることに改めて気付かされた内容でした。難しいであると同時にヒントになることもあったと思います。私たちが Web サイトを構築する上でも利用している方に良いエンディング(目的を達成してもらう)を演出することを考えることの重要性がみえてきました。また、ユーザーシナリオをつくって開発・デザインするチームもありますが、そういったアプローチも今回の話と照らし合わせると納得ですね。

改めて考えるといろいろな定義の仕方が出来る「体験」。同僚や Web を通して共有してみてはいかがでしょうか。先日 Twitter のほうで訊いてみたところ幾つか応えがかえってきたので以下に掲載しておきます。

  1. ukyokawabata直接肌に触れる経験
  2. kojishinjo記憶に残っているもの。
  3. masato_orz体験とは知る為の手段の一つで有り、特に物事を習得する手段として欠かせない要素の一つである。
  4. capeknote長期記憶内の符号をつかって、短期記憶に対して再認・再構築・意味拡張することで出来た認識が、既知を土台にしつつも新規な部分や構造をもっていたら「体験」として感じやすいのかなーと感じています。
  5. dctdesign身をもって感じたこと
Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。