LEAFから始まるソーシャルメディアの対話

LEAFから始まるソーシャルメディアの対話

SIPSからみえてくる課題

先日サトナオ・オープン・ラボがソーシャルメディアに対応した新しい生活者消費行動モデル概念「SIPS」を発表しました。今の時代における消費者の行動を Sympathize (共感する)、 Identify (確認する)、Participate(参加する)、Share & Spread(共有・拡散する)という4つのステージに分解。共感から共有へ。そしてまた共感へと繋がるサイクルを分かりやすく表現しています。資金をもつ企業だけが情報を伝達できるのではなく誰もが影響力をもつということを前提に、顧客とどのようにコミュニケーションをとれば良いか考える上において SIPS は基本といえるのではないでしょうか。

しかしながら、SIPS のサイクルには幾つか検討しなければならない点があります。

解説ではソーシャルメディアという一般消費者も影響力がある世界を意識してはいるものの、「共感する」のステージからいきなりマスメディア的なアプローチなのが気がかりです。他の人に伝えたいコンテンツの中に共感は確かにありますし、その共感とは厳密にいえば「有益かどうか」という部分は深く関わりがあります。しかしこれらは情報発信者側のコンテンツの種類を指しているだけであり、コミュニケーションの変化を訴えるには不十分です。共感を得れそうなコンテンツであれば、今までのようなトップダウンなマス広告でも良いというふうに読み取れなくはないです。

1年前に執筆した「情報の流れの変化を意識したウェブ戦略」はコミュニケーションの変化と Web サイトのあり方について解説した記事で SIPS にも多少関連しています。

解説ページでは「情報の伝わり方の変化した」と明言しています。これは消費者に刺さるコンテンツの種類が変わったという意味だけではなくコミュニケーションの仕方も変わったと捉えるべきではないでしょうか。消費者同士のコミュニケーションが Web 技術を活用した共有・対話により加速しているということは指摘していますが、企業側(情報発信側)のコミュニケーションの変化が共感しやすいコンテンツ配信以外に見受けられないのは残念です。

SIPSで定義されているように、共感を得れるコンテンツであれば自然と広まって共有・拡散に繋がるのでしょうか。今まで何度もコンテンツは重要であると書いてきましたし、その重要性は今後より一層増すでしょう。しかし質の高いコンテンツ (今回の場合だと共感を得れるコンテンツ) を提供したからといって必ず共有・拡散に繋がるわけではありませんし、情報の波に飲み込まれることもあるかもしれません。

SIPSはソーシャルメディア時代における消費者行動の概要を掴むには素晴らしいツールです(それを目的に作られているのも事実)。しかしトップダウン的な情報配信と「出せば広がる」と捉えることが出来る姿勢は従来とそれほど変わらなく見えます。また、共有・拡散に繋げるための具体性がもう少し欲しいなと感じました。

対話が生み出す「LEAF」のサイクル

SIPS の代替案になるとは思えませんが、消費者が共有・拡散という行動に向かうには企業(情報発信者側)は何をしたら良いのかにフォーカスして考えてみました。丁度よく「LEAF(葉)」という語呂が良い感じにもなったことですし、以下に紹介したいと思います。

  • Listen (耳を傾ける)
  • Empower (元気づける)
  • Assemble (集める)
  • Feedback (フィードバック)

Listen(耳を傾ける)

企業はソーシャルメディアを通して消費者は何について話しているのか、そして何を求めているのか把握しなければいけません。彼等の価値観がどこに置かれているのか、そして企業のもつ価値観と比べて何をしなければならないのか、何が出来るのかを検討するところからスタートします。解析ツールや社内にあるデータを活用して視覚化をしていく必要があります。

様々な場に点在するエバンジェリスト(伝道者)を見つけ出すのもこのステージです。

Empower(元気づける)

今年のキーワードのひとつとして挙げた「Empower」ですが、共感・拡散に繋げるための原動力になる重要なステージです。企業に対する思いを他人に伝えたいと考えている人たち(伝道者・支援者)に対して企業はサポートしているでしょうか。彼等が共有しやすいツール、メディア、コンテンツを用意しているでしょうか。彼等が何かポジティブなアクションをとったときに彼等の存在を認知し励ますような場や機会をもっているでしょうか。

Assemble(集める)

同じような志向や視点をもつ人と出会うことで共感する思いが増す場合があります。企業もただ消費者にコンテンツを提供するのではなく、同じような思いをもって人たちが集まり対話ができるような場をもつようにしなければいけません。企業がモデレーターとして、時にはリーダーとして人々を繋げる役割を果たすことにより、ブランドへの共感や思いが一層強まる可能性があります。

Assemble は単に人を集めるという意味だけではなく、人々がつくったコンテンツを集めたり、企業と人々が集まるという意味も含まれています。集まることでファン同士がまた新しい何かを作る可能性もありますし、企業とファンがコラボレーションをして何かを作り出すということも考えられます。

Feedback(フィードバック)

ソーシャルメディア上での対話はひとつのキャンペーンでもなければ、盛り上がればそれで良いというわけではありません。消費者が発する声に耳を傾け、彼等の欲しているモノ・コトを提供するまではしたものの、それが持続しないのであれば上っ面のメッセージになることもあります。「私たちは変わる」という企業メッセージを掲げても、企業そのものが以前と変わらないのであれば次第に消費者は離れて行きます。そして「あそこは変わらない」という負のメッセージが共有・拡散することさえあります。

ファンの行動から企業は学ばなければいけませんし、それを起点によりよいコミュニケーションを続けていくことで「ソーシャルメディアを活用する」といえるのかもしれません。

ソーシャルメディア時代の消費者行動の設計とは?

SIPS のようなモデルが出てきたことで、ソーシャルメディア時代の企業と消費者との対話の仕方について改めて考える機会が生まれたと思います。そして SIPS を起点として様々なディスカッションが生まれることを期待しています。SIPS という概念を具体的な形として落とし込まなければならないという意味では開発者・デザイナーにも考えていただきたい話題です。コミュニケーションを設計していかなければならないわけですから、デザイナーには必須項目でしょう。

消費者行動の大まかなサイクルの把握に SIPS。S へ繋げるための企業がとるアクションが LEAF といったところでしょうか。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。