プロトタイプの使いどころからみる紙の真価

今だからこそ再入門

2015年7月12日東京 OpenCU のイベント「CMS SUNDAY Vol.4」に登壇しました。セミナーと一緒にワークショップも実施されましたが、CMS のカスタマイズ知識なくても参加できるカリキュラムが組まれていました。ファシリテーションを務めた羽山祥樹さんのワークショップの進め方も含めて勉強になる充実した1日になりました。私のほうはワークショップ前の準備運動としてプロトタイプの基本を振り返る話をしました。

2012年頃からプロトタイプに関するセミナーやワークショップをしています。翌年にはデジタルハリウッド大学院でプロトタイプの講座も開いています。

それから、およそ3年。
プロトタイプをつくるためののツールは高機能になり、当時では難しかったことを10分ほどで作り上げることもできるようになりました。紙芝居でするしかなかったアニメーションも、今だと Pixate のようなツールを使えば、コードの知識ゼロで相手にアニメーションの意図を伝えることができます。もちろん、アニメーションを作るためのツールは Pixate だけではありません。機能の違いを把握するのが難しくなるくらいプロトタイプを作るためのツールが充実しています。

今回「再入門ペーパープロトタイプ」というセミナーにしたのも、詳細度の高いプロトタイプが作れるようになった今だからこそ、紙で作ることのメリットを十分に理解して作る必要があると考えたからです。多種多様のプロトタイプツールを選べる現在。改めて『プロトタイプ』の意味を振り返ることで、紙をはじめとした道具の使い所を自分で判断できるようになります。

進めるためのプロトタイプ

「ワイヤーフレームは古い」みたいな表現も使われることがありますが、私のなかではワイヤーフレームは選択肢のなかに含めるべきコミュニケーションツールと考えています。本セミナーではプロトタイプを以下のように定義しました。

プロセスを前進させるために十分な、共有可能な成果物

様々な仕事環境やクライアントとの関係があるわけですから、これくらい緩い定義のほうが丁度良いと考えています。この定義で重要になってくるのが「前進させるために十分」であること。プロトタイプというのは、特定のステージで作るものではなく、必要なときに必要なだけ作ることになります。プロトタイプ作成の鍵は、誰と共有するのか、何を共有しようとしているのかの理解です。その理解がなければ、とにかく本物に近いプロトタイプを作ることになってしまい、コストが肥大化していきます。

作り込み過ぎては目的と異なるフィードバックが来ることになりますし、何よりも時間がかかってしまいます。また、簡略し過ぎると本来伝えなければならないアイデアが相手に理解されない可能性があります。ツールを選定する際、そのとき必要とされる詳細度のプロトタイプを早く作れることが条件になります。これがプロトタイプツールを選ぶところが難しいところですし、複数の道具を知っておく必要がある理由だと考えています。

こうしたなか、紙を選ぶ理由は2つあります。ひとつは専門知識がなくても参加できるところ。「デザインは分かりません」という開発者も、紙で描くことはできますし、より優れたアイデアを出してくることもあります。今でも積極的にWebサービスが使えない環境はありますし、わざわざアプリを落としてプレビューできないところもあります。そうした場合、筆記用具があればすぐに始めることができるペーパープロトタイプは有効な手段になります。

もうひとつのメリットは圧倒的なスピードです。会議中でも即座にアイデアを視覚化できるので、その場でしかできないダイナミックなアイデア出しに大きく貢献します。デジタルのプロトタイプツールも随分早く作れるようになりましたが、紙でしか実現できないスピードはあります。

スケッチの一例

早く描くのは簡単そうで難しいことです。つい上手に描こうとしたり、正解を探し求めて手が止まることがあります。明らかにボツネタのように見えるものも、とにかくたくさん出す。まずはアウトプットしてから考えるようにしないと早く描くのは難しいです。大学のデザインの授業で、ロゴアイデアを 50〜100コ描くトレーニングを何度かしました。結局、目に見える状態にしないと分からないことが多いわけですから、出し切った上で方向性を見極めるほうが後戻りが少なくなります。たくさんのアイデアをグラフィックソフトで作るのはのは大変ですが、手描きであればすぐに数パターン作れます。

言い方を変えるのであれば、早く作って即座にフィードバックを得ることができない環境であれば、ペーパープロトタイプを使うより別の方法を用いたほうが効果的かもしれません。ワイヤーフレームも『プロセスを進めるために十分な詳細度』であれば、効果的につかえるシーンはたくさんあると思います。

プロトタイプを作る上で重要なのは、ひとつのツールにすべて任せないこと。特定のやり方で伝わないのであれば、道具を変えて(表現を少し変えて)再度試してみる。そのために引き出しは多いほうが良いですし、道具を使い続けることで、どこを省略できるのか見極めができるようになります。いつも同じメンバーで仕事をしているのであれば、道具をあれこれ変えることはないと思いますが、プロトタイプツールは常に進化し続けているので、たまに道具を入れ替えて試してみる価値はあるはずです。

プロトタイプの意味が分からない、ツールが多過ぎてよく分からないと考える方へのヒントになっていれば幸いです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。