デザインの仕事にある成熟と熟練

デザインの仕事には Why を問う仕事へ「成熟」していくものもあれば、作り方や見せ方を徹底的に突き詰める「熟練」への道もあります。Why を問う仕事をするには、その前の What, How の知識と経験が不可欠です。

デザインの意味とは … といった禅問答のような質問をときどき耳にします。語源まで辿って「記号を表す」といった説明をする人もいれば、「設計をする」と応える方もいます。装飾という意味合いをデザインから離す人もいますが、装飾もデザインの一部として捉えることもできます。

デザインの定義は読者ひとりひとりに委ねますが、デザインを学習したい場合「人それぞれだから頑張って」で済ますわけにはいきません。デザインの『入り口』が必要ですし、どこへ向かっていくのかという目的地も必要だと思います。

デザイナーの成熟度は、以下のような UI を見たときの反応で判断することができます。

サンプル UI あるサイトの UI を基にしてつくったスケッチ

デザイナーによって、この UI に対するリアクションは異なります。大きく分けると 4 つあります。

見た目を変えたい
インプットフィールドの見た目が良くない。タイポグラフィの選択が良くない。色彩を変えたいといった、見た目をデザインしたいという方。
作り方を見直したい
どの技術を使えば実装できるのか。何かツールを活用することで、UI を改善できるのか。どのような技法を採用すれば、UI を実装できるのかを考える方。
手法・方法論を用いたい
タッチデバイス向け UI の『ベストプラクティス(効率の良い手法)』を適用したい。または、同じようなデザインパターンが他にあるかを考えて設計する方。
なぜを問いつめたい
その情報が今のタイミングで必要とされているのか。なぜこの画面で表示しなければならないのか。どのような経路を辿ってこの画面に辿り着いたのか考える方。

最初は見せ方や作り方にフォーカスしていたデザイナーも、経験を積んでくると「体験」という大きな絵を描きたくなるようになります。下図のように次第に「Why」を問う仕事へ成熟していく方もいれば、作り方や見せ方を徹底的に突き詰める「熟練」への道を辿る方もいます。

デザイナーの成熟と熟練

ここで重要なのは「Why」を問う人が、デザイナーとして優れているということではなく、学習していく上でステップが必要だということです。サービスの全体像や利用者体験を考える人であれば、美的感覚、実装方法、方法論といった知識だけでなく、現実的に可能などうかを見定めるための経験が必須です。「What」と「How」が分かっていないのであえば、「Why」を考えても空論になったり、ブレインストーミングで良いアイデアが出でも現実的ではないことばかりになります。

また、デザイナーの『終着駅』が、Why を考えて設計できる人というわけではありません。見た目を徹底的に拘れる人、仕組みを理解して効率化がはかれる人。それぞれ熟練のスキルが必要になります。熟練の道を辿るほうが、自分に合っていると考える人もいるでしょう。ひとつのことをしていれば良いという役割分担がはっきりした仕事ばかりではないので(むしろ少ない)、「What」「How」「Why」それぞれを勉強していく必要はあるでしょう。しかし、作り出すことが好きであれば、自分が必要だと考える『作るためのデザイン』を突き詰めるべきです。

「Why」を考えることができるようになるには、知識だけでなく実践での経験が不可欠です。見せ方、作り方という基礎を固めた上で、Why を問える場が必要になります。最近ではインターンシップや、学生をプロジェクトに招くといった、実践を基にした学習スペースが増えてきました。その現場で、見た目を良くする仕事に携わったとしても、人間関係や、独自の制約といった、学習の場では想像もつかないことを経験しますし、それが成熟・熟練への糧になると思います。現役で働いている方でも自分のサイトと呼べるような場所を作って公開することが、毎日の仕事に役立つはずです。また、社内勉強会も別の視点や知識を得るための絶好の機会です。

学習の場という『疑似空間』だけではなく、実践の場で学ぶことができる機会を増やしていく必要があります。それを実現するには、仕事の場に学びの文化があることが不可欠です。熟練のための腕を磨くというのも当然ありますが、覚えたい技術やノウハウを知ることが熟練になるというわけではありません。成熟があっての熟練でしょうし、全体が分かるからこそ、詳細に拘ることができると思います。実践で発生した失敗や、それを基に模索するといった体験は、デザインという仕事との向き合い方を考えて成長していく上で資産になるはずです。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。

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