ゲームから立ち返る利用者のためのデザイン

ゲーミフィケーションを「ゲーム要素の集合体」と見なさず、ゲームを通して生まれる感情をどのように開発・デザインに活かせるのかという視点で見ていくことで、作るためのテクニックやノウハウがより活かされるはずです。

ゲーム要素がゲーミフィケーションではない

2012年3月24日に Android Bazaar Conference 2012 Spring が開催されました。今まで Android コミュニティとの接点がもてなかったので、今回のようなビックイベントで講演できるのは、またとないチャンスだと思いました。

今回は「人間中心遊戯設計」と題して人に注目したゲームデザインの取り入れ方について話をしました。ゲーム、特にオンラインゲームは私の得意分野。オンラインゲームとデザインに関する話題は 2006 年から取り上げていますし、講演でも何度か取り上げています。

Gamification in 20122015年には28億ドルのビジネスになると言われているゲーミフィケーション

昨年から日本でも頻繁に耳にするようになったゲーミフィケーション。Oxford Dictionary にも定義が書かれてるので、造語というよりかは、ひとつ確立した言葉になってきているのではないでしょうか。昨年末 BigDoor がゲーミフィケーションはメインストリームであることを分かりやすくインフォグラフィックでまとめましたが、これを見ても分かる通りゲーミフィケーションは注目を浴びているだけでなく、ビジネスにポジティブな成果をもたらしています。

そこで、ゲーム要素と呼ばれているような、ポイントやバッジを導入するところが増えてきているわけですが、ゲーム要素はひとつの機能であって「アプリケーションやサービスを楽しんでもらう/喜んでもらえる」という根本の解決に繋がらないことがあります。

バズワードになると、必ずこうした機能や表層的な部分だけが注目されてしまうことがあります。UX が、美しい UI や気持ちのよいアニメーションといった、目に見えて分かる部分のみ取り上げられているのと重なるところがあります。ゲーミフィケーションにしろ UX にしろ、表層的な実装の前に、必ずといって良いほど「なぜ」という問いかけから始まります。完成後を見ると、ゲーム要素が目立っているものがありますが、実際のところ人々の欲求/ニーズに応えているものばかりです。

  • なぜ人は長く使い続けているのか?
  • 始めは盛り上がっても、使わなくなるのはなぜか?
  • なぜ人は「楽しい」と感じるのか?
  • なぜ人は時間を忘れるほど没頭できるのか?
  • なぜ機能がたくさんあっても使えてるのか?

こうした「なぜ」を考えることで、人が楽しむ/人が喜ぶために何が必要なのかが見えてくると思います。そのときにゲーム要素を取り入れることが最適であれば、取り入れるべきでしょう。実際のところ、ゲーミフィケーションが前提として開発されて成功しているアプリやサービスはないわけですから。

開発者だからアイデアを開発してほしい

今回ゲーム要素の解説ではなく、ゲームと関わることで生まれる人の心理について話しました。突き詰めると、「楽しめる」「嬉しくなる」のは何か?ということではないでしょうか。

ゲーム要素を取り入れることで、助長されることもあるかもしれませんが、利用者にとって「楽しめる」「嬉しくなる」のはエンターテイメント性を導入するだけではないと思います。「きちんと動作する」「エラーから復帰しやすい」という当たり前を作り込むだけでも、利用者は喜んでくれるはずです。

ウィンドウを閉じても残っている未保存ポストのアラートウィンドウ

講演でも例として挙げた Tumblr もそのそのひとつです。ポストを保存しないで他のページへ行くと、「保存していないポストがある」と告知してくれるので、いつでも戻って作業を続けることができます。「X(閉じる)」ボタンを押すまで、ずっと残っている安心設計です。ブラウザがクラッシュしたり、間違って他の Web サイトへ移動してデータを失うことがなくなるので「嬉しい」と感じる方もいるでしょう。

機能だけ見れば、シンプルなのかもしれません。しかし、こうした少し気が利いた配慮は開発者からのインプットが欠かせません。デザイナーだってアイデアくらいは出せます。しかし、それをどのように導入すれば最適なのか、技術的に今だから出来ることは何か、早く作るための最良の方法は何か・・・といった部分は技術に理解がある開発者だから出せるインプットだと思います。 Tumblr と同じものが必要だとは限りません。自分たちがターゲットにしている利用者が喜ぶ仕組みを考えなければならないからこそ、様々な視点からのアイデア出しが欠かせないと思います。

Angry Birds Spaceの Web サイト。
これを見て、テクニックを真似たいと思う方もいるはずですが、導入だけでは同等の価値は提供できません。Angry Birds はゲームプレイを Web サイトの操作を通して体感してもらうという課題を解決されたデザインです。

作るのが仕事だから、作ることに徹底したいと思う方もいるかもしれません。だからこそ、ゲーム要素の導入方法、カッコイイ UI の作り方という、作る仕事に直結した情報が好まれるのも当然だと思います。作り方を学ぶことが自分の仕事の血であり肉であるものの、利用者の「なぜ」を突き詰めることで、自分のスキルを伸ばすことができるはずです。

アイデアの開発に携わって開発するのと、そうでないとではモチベーションも変わるかもしれません。

開発者だけでなく、デザイナーも同様です。
UI やレイアウトを作ることが主な仕事かもしれませんが、アイデアをデザインしていくことでより活かされる UI があるはずです。デザイナーであるからこそ技術とより親密な関係になるべきでしょう。

ゲーミフィケーションは、これからさらに注目されます。
周りは表層的なところに注目しているだけだったとしても、私はゲーミフィケーションを「ゲーム要素の集合体」と見なさず、ゲームを通して生まれる感情をどのように開発・デザインに活かせるのかという視点で見ていきたいと思います。

筆者について

長谷川恭久

写真:長谷川恭久Webやアプリに関わる様々な話題を取り上げた講演やワークショップをおこなっています。日本各地で講演や社内勉強会を 100 回以上の経験しています。
社内勉強会、イベントでの登壇の依頼は、メールか Twitter メッセージからお願いします。

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