体験そのものを製品として売る

Snow Leopard今月初めに開催されたアップル開発者向けカンファレンス WWDC 2008 では、日本で 発売も決まった iPhone 3G の話題で持ち切りでしたが、個人的に気になったのが次期 Mac OSX にあたるコードネーム「Snow Leopard」。Mac OSX 10.6 という位置付けのようですが、今回は目に見えて分かるような新機能はなく、64-bit サポートや OpenCL のような開発者にとって嬉しい技術の実装が中心。開発者でなければ具体的にどういったメリットがあるのか現時点では分かり難いです。

もちろん、利用者にとっても快適で安定したパフォーマンスが約束されると思いますが、新機能がないのに次期 OS としてリリースするのは今までにないケース。MSっぽく「Leopard SP1」というわけにはいかないでしょうけど、スタンスとしては似ているような気がします。最も新しいバージョンである「Leopard」を含めて新しい OS がリリースされる度に何百も新機能がありますと宣伝してきたわけですから、発売が近づいたときにどうプロモーションするのかすごく興味があります。Snow Leopard のスクリーンショットは、ネットで探すと幾つか出てきますが、Safari 4.0 を除いて見た目も機能も変わりありません。

もし新機能がないまま、今までのようにフルプライスで販売することになったら、体験そのものを製品として売り出す最初の OS になると思います。Windows Vista もセキュリティ面を強く押していた印象がありましたが、それでもたくさんの機能と見た目の大幅リニューアルという分かりやすいセールスポイントがありました。まだこれからいろいろ情報が出てくると思うので何とも言えない部分はあるものの、新機能がない(もしくは少ない)状態でリリースするのであれば、それはそれでどうプロモーションするのか楽しみだったりします。

新機能の追加がなく体験だけで価値を語るのはひとつの挑戦ではありますが、不可能ではありません。考えられる方向性は4つ考えられます。

感情移入
製品を扱うときの人の行動や目的を理解して具体的な提案を行う
問題解決
複雑な問題を明確でシンプルな形で回答することが出来ることをアピールする
未来予想図
製品を使うことで新しい自分 (新しい環境) に生まれ変わることを紹介する
招待状
購入することがひとつの文化やグループに仲間入りするためのステータスになる

Appleなので「招待状」的なアプローチはするもしないも既に存在していると思いますが、「感情移入」「問題解決」をいかに短くて明確なストーリーとして落とし込むかが鍵になってくるでしょうね。もしかすると、機能がリストアップされているだけの従来の形より OS の良さが伝わりやすくなる可能性も秘めているかもしれません。「Snow Leopard」の発売はまだ 1年先ですが今から楽しみです。

個人的に、英語版では既に実装されている VoiceOver が、次期版では日本語でフルサポートして欲しいですね。インフォアクシアの植木さんも絶賛していました

追記: MACお宝鑑定団idanboさんによると、SF EXPO 2009 には一般ユーザー向けの新機能が幾つか紹介される可能性があるとのこと。となると、体験そのものを製品として売るというアプローチではないかもしれませんね。いずれにせよ楽しみです。

Yasuhisa Hasegawa

Yasuhisa Hasegawa

Web やアプリのデザインを専門しているデザイナー。現在は組織でより良いデザインができるようプロセスや仕組の改善に力を入れています。ブログやポッドキャストなどのコンテンツ配信や講師業もしています。