デザインはビジネスも世界も変えなくて良いと思う

映画「Design Disruptors」は、文脈が見えないまま「世界を変える」というメッセージだけが全面に押し出されているように見えました。今は過剰な夢を売り込むより、模索でも良いから実践して前へ進める時期ではないかと思う今日この頃です。

破壊しているのはビジネス

先月、英国に行ったときに「Design Disruptors」というドキュメンタリー映画を見る機会がありました。これはプロトタイプツールを提供している InVision が制作したドキュメンタリーで、Facebook, Uber, Netflix など最前線を走る企業のなかで活躍するデザイナーのインタビューで構成された内容でした。

1 年半以上かけて丁寧に作られたドキュメンタリーで、新興のテック系企業が作ったとは思えない品質。しかも、映画の一番最後まで自社製品の宣伝がなく、本編でも「inVision」という言葉は一度も耳にしませんでした。こうしたコンテンツが作れる inVision は改めて凄いと思ったと同時に、一体これは誰に向けて何が言いたかったのか分からないところもありました。

デザインがどうビジネスや世界を『Disrupt (破壊・再構築)』しているのかを伝えたかったのだと思いますが、文脈がないまま次々と有名企業のデザイナーからのメッセージが流れるだけの構成。そこから自分なりに解釈・理解するには、本作を見ただけでは足りないかもしれません。

実際会ったことがある方や、訪問したことがある有名企業が次々と出てきたわけですが、どの企業も以下の 3 点が共通していました。

  • ビジネスモデルが市場に受け入れられている
  • 上場してる、又は出資を受けていてお金がある
  • 数十人もしくはそれ以上のデザイナーを抱えている

ビジネスが「Disrupt」したところに、デザインが入ってさらに価値が増幅されたような企業がほとんどでした。つまり「Design Disruptors」というより「Busines Disruptors」に見えるわけです。例えば Airbnb にしても、ビジュアルデザインを整えたことによって大きく飛躍した企業ですが、従来の観光・宿泊産業を破壊するほどのビジネスモデルがあったからこそ成功したと思います(参考記事)。

こうした背景を理解しているのであれば、本編に登場するデザイナーが言う「我々は世界を変えている」という言葉のニュアンスが見えてくるわけですが、その言葉をありのまま受け入れると、デザイナー視点で、デザイナー中心の言い回しに聞こえるわけです。登場している企業に対する予備知識がないまま、本編を見ると「よし、私がすべてを変えるんだ!」と思い込んでしまう新人デザイナーも出てきそうです。脈略がないまま、次から次へと「我々は世界を変えている」という言葉が流れてくるわけですから、勘違いしても仕方ないかもしれません。

デザインという投資

「Design Disruptors」のような言葉は、デザインを『導入』すれば何か劇的に変わるかもしれないという周りからの淡い期待を表していると思います。それは UX にも同じようなことが言えて、手法を取り入れたら何か変わるかもしれないと考えている方は未だにいます。本作を見て、デザインもっとしようと意気込む人が現れるかもしれませんが、そもそもの製品・サービス(ビジネス)がダメだったら、デザインに力を入れたところで飛躍的に変わることはないわけです。

では、そのビジネスそのもののデザインにデザイナーが関わるのかというと、創業者であったり、同じくらいの責任が課せられた立場でないと難しいと思います。Pinterest は、創業者自ら面談して自社サービスに合うユーザーをひとりひとり集めたというエピソードがあります。ビジネスに責任を持つ方がデザイン思考をもっていると、早い段階からデザインについて考えやすい環境が作られる場合があります。しかし、それは今のところ珍しいケースで、多くは「デザインは導入すればうまくいくものではない」「そもそも導入という考え自体、適していない」というところからスタートするわけです。

今だと、Google のデザインは良くないと考える方は少ないわけですが、7 年前だと Google のデザインの考え方に嫌気が差して辞めた方がいるくらいです。多くの人、お金、時間をかけてようやく今の Google があるわけで、「デザインって重要そう」という気持ちだと何も変わらないどころか、逆に悪い印象を残してしまうことがあります。Google だけでなく、本編に出てきた企業にしてもいきなり劇的に変わったところはありませんし、私たちの日々の仕事にしてもそうです。すぐに結果は出ないわけです。

自分のなかでデザインは投資に近い存在と思っています。
製品・サービスとしてさらに飛躍する可能性をもっているから、デザインがその成長の手助けをするという意味での投資。「デザイン=成功」と一直線で関連付けすることはできませんし、いくら調査をしても 100% は保証できないという意味での投資。それでもやるには、それなりに人とお金が必要になります。もちろん時間も必要です。「Design Disruptors」に出ている企業は、その投資に成功した例と言えるでしょうし、デザイナーはその成功のために日々努力したと考えています。

デザイナー自らビジネスや世界を変えることはなくて良いと思います。しかし、私たちが作っている製品やサービスの価値を高める力はもっているでしょうし、その実現のために同僚と一緒に動ける環境をデザインしていくこともできるはずです。「Disrupt (破壊)」ではなく「Enhance(増進・増幅)」ではないでしょうか。

まとめ

「Design Disruptors」で語っているデザイナーは、成功しているから言えていることだと悲観的に見ているわけではありません。数年かけて少しずつ積み上げた結果だと思いますし、外から見えない失敗や後退もあったと思います。ビジネスが成功しているから、デザインも自動的に成功するわけではないですし、元々デザインの文化がないところだと、その努力と忍耐力は我々の想像を超えているはずです。

ただ、本作ではその文脈が見えないまま「世界を変える」というメッセージだけが全面に押し出されているように見えたのが少し残念でした。それをサンフランシスコのスタートアップ的な雰囲気として楽しむのもひとつですが、今は過剰な夢を売り込むより、模索でも良いから実践して前へ進める時期ではないかと思う今日この頃です。

筆者について

Experience Points

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