良いデザインの原則と『立ち止まる』こと

走り続けなら改善すれば良い。ダメなら壊してやり直せば良いというスピード感のある進め方は今風のやり方と言えばそれまでですが、今必要なのは立ち止まって『問う』ことだと思います。

ブラウンとアップル」という記事で、デザイナー Dieter Rams(ディーター・ラムス)が提案した良いデザインの10の原則を紹介しました。1970年代に提案されたものですが、現在にも通じる普遍性のあるメッセージです。これのアップデート版のようなものを、Co.DesignのSuzanne LaBarre さんが提案しています。特にアプリや web サイトをはじめとしたデジタルプロダクトを意識した内容になっています。

  1. 良いデザインは様々な影響を考慮している
  2. 良いデザインは『スロー』である
  3. 良いデザインは正直である
  4. 良いデザインは政治的である
  5. 良いデザインはシステムを意識している
  6. 良いデザインは良いライティングである
  7. 良いデザインは多面的である
  8. 良いデザインは人とマシンのためにある

この中で特に気になった「良いデザインは『スロー』である」から、今後のデザイナーの仕事についてぼんやり考えてみました。

スローなデザインは可能か

走り続けなら改善すれば良い。ダメなら壊してやり直せば良いというスピード感のある進め方は今風と言えばそれまでですが、偏った視点を作り出す恐れもあります。 パソコンも使える web に強いユーザーが主なターゲットだった 5, 10 年前であれば、激しい変化の中でもユーザーは付いて来たかもしれません。しかし今はたくさんの方が情報へアクセスできるようになっただけでなく、手段も多種多様になりました。

ユーザーのことを考えて … と言いつつ、作り方は近しい感覚をもった人たちに向けてしか作っていないのではと感じることがあります。以前、東京中心設計というフレーズを使って表現したことがありますが、似たような現象はサンフランシスコを中心としたテックカルチャーにも言えます。テックカルチャー外の『普通の人たち』が日々使っているのにも関わらず、私たちは「グロース」「PDCA」という言葉を使ってユーザーを振り回しているのかもしれません。

走りながら作り続けることの最大のデメリットは、後ろを振り向くと『負債』と呼ばれる壊れてないけど放置しておくと危険なものがあちこちに散らばる点です。これはエンジニアリングだけでなく、デザインにも言えます。改善を続けるのに必死になっていると、似たようなデザインアセットがあちこちに混在した状態になり、第三者だとどれが最新版でどう扱って良いのか分からない場合があります。また、一度立ち止まって整理したくても、その時間を確保できないこともあります。

今まで全力で走り続けた結果、表面は綺麗に整っていても裏側を見ると『ハリボテ状態』のデザインになっている可能性があります。デザインシステムはこうした課題の解にはなるものの、立ち止まって整理する時間が必要になるので、走り続けながら作るのは困難です。良いデザイン、良い仕組みを作るには時間が必要です。目の前にあるものを作るという短期的な視点になりがちですが、半年、1年という少し先を見て作れる環境と話し合える場作りが必要になります。

問い続けること

ディーター・ラムスが提案した 10 原則にも共通していますが、デザイナーは「なぜ」を問うことを止めると、良いものが作れなくなるのかもしれません。デザインの仕事にある成熟と熟練とは、以下のような状態にならないことだと思います。

  • 指示通りにただ作り続ける
  • 人の心理や社会の影響を考慮しない
  • 乏しい結果を他人のせいにする
  • 短期的な成果だけを求める姿勢

こうした状況に甘んじるほうが楽なことがありますし、あえて逆らおうとするほうが大変なことがあります。また、独りよがりの正義を振りかざす恐れもあるので、かえって周りを突き放してしまう可能性もあります。

どう形にするかは現場によりますが、「本当にこれで良いのか?」と声を発することは忘れてはならないこと。恐らく、その問いはスルーされるかもしれませんし、議論したけどそのまま進行することもあるでしょう。耳を貸してくれないからといって『問い続ける』という行為を辞めてしまうと、良いデザインからますます遠ざかってしまうと思います。

こうした原則を振り返ってもデザイナーの仕事は作るだけではないのが分かります。高らかと宣言する必要はないですが、デザインの仕事をしていく上で、自分なりの原則のようなもの(ポリシーと言うのか?)があると、自分の働き方、これからの目標も立てやすくなります。2018年も本格スタートしたことですし「自分的デザイナーのあるべき姿」を考えてみてはいかがでしょうか。

筆者について

Photo of Yasuhisa Hasegawa

組織の一員となるスタイルで一緒にデザインに関わる課題を解決するといった仕事をするなど、チームでデザインに取り組むためのお手伝いをしています。各地でデザインに関わる様々なトピックで講師をしています。

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